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ゆとり世代の仕事ぶりに問題があると、話題になって久しく。だから俺は、がむしゃらに働いた。『ゆとり世代』と一概にくくられないように。
「岡田さん。明日の会議資料、出来ました」
陽当たりの良い窓を背にしてデスクを構える、岡田さんの元に行く。春の陽射しは暖かくて、こんな昼下がりはうつらうつらと船を漕ぐ新入社員が見受けられたが、岡田さんはけして隙を見せない、自分にも部下にも厳しい上司だった。
普通の企業なら『課長』と呼ばれる身分の岡田さんだったけど、うちの会社は年功序列を廃し能力重視をうたっていることもあって、どんなに肩書きが上でも『さん付け』なのが暗黙のルールだった。だから、俺は今日も呼ぶ。
「岡田さん。チェックお願いします」
色素の薄いはしばみ色の瞳が上がり、俺を映した。そういう体質なのか、髪も茶色、肌も日焼けを知らぬように真っ白。今年四十になるというのが嘘みたいに、小柄で小顔で線が細い岡田さんは、資料を受け取って俺を労ってくれた。
「ご苦労。君は仕事が早いな。少し休憩すると良い」
内容とは裏腹に、ここまでニコリともせず、鋭い眼光は揺るがない。
「ありがとうございます。ついでですから、岡田さんも紅茶、飲みませんか」
分かりにくいが、切れ長の瞳が、ふっと細められた。
「そうだな。君の淹れる紅茶は美味い。金を払いたいくらいだ。頼む」
――よっしゃ!
俺は心の中でガッツポーズする。
入社三年目、岡田さんが時折僅かに目を細めるのが、『笑って』いるのだと気付いてから初めて、紅茶の淹れ方を誉められた。紅茶党の岡田さんの為だけに、喫茶店をやっている友人から、淹れ方をみっちり教わった甲斐がある。
俺は思わず鼻歌なんかを歌いながら、給湯室で丁寧に紅茶を淹れる。勿論、茶葉から。今日はせっかく誉められたから、ブランドはフォートナムメイソンに。
ポットとカップは予め湯通しして温めておき、電気ポットのお湯ではなく沸騰したての熱湯で茶葉が開くまでゆっくり蒸らす。焦りは禁物だ。――何事も。
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