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おじさんの秘密
おじさんの家は、もともとくつ屋で、お父さんはくつ職人だった。
おじさんは子供のころから、お父さんがくつを売っている様子を見て、将来は自分もくつ職人になりたいと思っていた。
やがて、おじさんが大きくなってから、お父さんが亡くなり、店を継ぐことになった。
おじさんのお父さんは、亡くなる前、こんなことをいっていた。
「職人は、ただお客さんのために、はいてくれる人が喜んで使ってくれるために、丈夫で長持ちするくつを作りさえすればいいんだ」
おじさんはそれをきいて、こう考えた。
それは正しいことだ。けれども、くつでもなんでも、何かを作るということは、一種の芸術なのではないか。それなら自分は、自分にしか作れないくつを作るべきなのではないかと……。
そんなおじさんの作るくつは、だんだんと、くつのもともとの使い方からかけ離れた、おかしな方向に進んで行った。
つまさきでかき氷が作れるスケートぐつ、歩くたびにカエルがつぶされたようなうめき声のするシューズ、横長の長ぐつ……。
お客さんの数は、しだいに減っていった。
やがて、おじさんは、気分が落ち込む日が増えた。
自分は果たして、何のためにくつを作っているのだろうか。そしてだれのために? くつをはいてくれる人のためか、自分のためか、それとも……。
苦しい生活の中で、おじさんは自信がなくなり、何がなんだかさっぱり分からなくなった。
そんなある日、夜逃げを思いついた。
おじさんは、売れ残ったくつと道具一式、借りてきたトラックの荷台につめ込んで、真夜中に出発した。
そのときの月の光は、おじさんにはものすごくまぶしく感じられた。
できる限り、遠くまで逃げようとしたが、四時間ばかり走ったところでガソリンがなくなり、やむなく途中で道路の路肩に停車した。
いつのまにか、空の月は雲で隠され、見えなくなった。人気のないガードレールを、電灯だけがさびしく照らしている。
ちょうど、そのそばに森があった。
おじさんは、トラックを降り、荷物を詰め込んだ風呂敷を背負うと、その森の中へ入っていった。
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