【ギャグ短編】地球のぶらつき方

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【ギャグ短編】地球のぶらつき方

 私はカミオカ・アリサ。エコー三号星で、トラベルライターをしている女性です。でも、仕事が少なく退屈しのぎに、ネットゲームばかりしている毎日です。  でも、知り合いのキヨカワ・セナコさんから、仕事を紹介してもらえました。親切にしてくれるセナコさんのことをこんな風に言いたくないけど……、恋多き女性と表現しておきます。大人なら意味分ってくれますよね? 私はセナコさんのまねは、できないです。でも、すごく優しいお姉さんですよ。  旅行ガイドで有名なあの”ぶらつき出版”さんから、どこかの太陽系の惑星の地球にある日本とかいう、聞いたこともない国の旅行ガイドブックの依頼が来ました。セナコさんに訊ねたら、一回行ったことがあるけど、”楽しい国”と笑っているだけ。ちょっと不安になりました。  それに――アリサちゃんは、若くて、スタイルが良くて、かわいいから取材に向いているんですって、いやーな予感がします。  早速、日本人のことを宇宙インターネットで調べたんだけど、びっくり! 私たちエコー三号星人と外見が全く一緒なんです。生物学のウェブサイトを見たら、全く同じ遺伝子を持つ人類なんですって。どうして、100光年も離れているのに、同じDNAを持つのかは、まだ謎らしいです。そのミステリアスなことも、旅行ガイドに書かなければなりません。  ここだけの話、ぶらつき出版さんは、ケチでも有名なんです。いっつも、取材費用を最低限しか出さないんです。でも、そんなこと言える立場じゃないでしょう? ぶらつき出版の編集者さんと、一回打ち合わせしただけで、宇宙高速バスに乗り、エコー三号星から一泊二日の日程で、地球にある日本に向かうことになりました。一億人以上いる国の取材なのに短いって、突っ込みたい気分です。  取材に持っていく物は、超小型万能自動翻訳機は当然です。  一緒に住んでいるおばあちゃんが――アリサちゃんが、大事にしているノートパソコンをなくすといけないから、と言ってくれました。  倉庫にしまってあった古いのをくれました。性能は悪いけどおばあちゃんが、欠かさずメンテナンスをしていたようです。  これだけ古いのに、きれいなノートパソコンは、逆にプレミアがつくかも? 地球のインターネットとの互換性を調べたら、おばあちゃんからもらった旧式のノートパソコンの性能は、地球で二番目のスーパーコンピューターと、同程度で問題はありません。  おばあちゃんに、もっと良いのが欲しいって、わがままを言ったら――二位じゃだめなのって、叱られました。  日本の衣服もおばあちゃんが、インターネットで調べて、着なくなったおばあちゃんの服を改造して作ってくれました。おばちゃんには、感謝の気持ちでいっぱいです。  翌日、宇宙高速バスで女性専用席に座り、ちなみに、女性専用席の差額分は自腹でした。バスの中でノートパソコンに、ダウンロードしたデータを見ていたんです。地球の人たちは、科学技術が遅れ……、失礼な発言を訂正いたします。将来の発展が楽しみな星です。  地球外の私たちのような異星人の存在は、ごく一部の政府関係者以外には、社会不安をさけるため隠されているそうです。エコー三号星と外交関係を結んだのも、まだ数年前です。歴史で習った昔のエコー三号星みたいで面白そう。  地球に着いて、日本の名古屋という宇宙高速バス停で降りたんです。そこは、日本人の方には”中京国際空港”と呼ばれている場所です。前もって予約しておいた、異星人向けのタクシーで、異星人専用のビジネスホテルに向かいました。日本で一番安いホテルがビジネスホテルなんです。シティーホテルに、宿泊すると足が出るんです。気さくな日本人の運転手さんに、タクシーを止めてもらい車内から古風な高層ビル群と、古代文明の遺跡みたいな名古屋城を撮影しました。最初は酸性雨の影響かな、と勘違いしていましたが、運転手さんによれば、秋と呼ばれる季節で、”紅葉”と呼ばれる自然現象のため葉が、赤茶色になっている、と教えてくれました。  一人一泊、朝食、夕食付きで、5,800円のビジネスホテル”エイリアンイン名古屋”に着くと、客室から地球のごく初歩的なインターネットに接続したんです。日本の観光名所ランキングを見て、それぞれの営業時間や料金を確認し、一覧表を作り、さくっとまとめちゃいました。こういう作業は得意なんです。ここまでの情報で、旅行ガイドブックのかなりの部分は、埋められるでしょう。ちなみに、食事は、エコー三号星から持って来たレトルトパックを電子レンジで、チンして終りです。  地球の科学技術はエコー三号星より100年は遅れ……、また、言っちゃった。すみません。  少し前、取材先のある星で、食中毒になったことがある私は、衛生面がどうしても心配だったんです。  ビジネスホテルの食堂では、一切料理には手をつけず、写真だけを撮りました。旅行ガイドの記事には”おつな味である”とでも書いておけば良いでしょう。私って天才かも?  大浴場でも浴槽には入らず、シャワーで汗を流して客室に戻る、と窓ガラスの向こうから地球の衛星である”月”が見えたんです。  衛星が二つあるエコー三号星と違うので、このことも書かないといけないですが、美しさに思わず見とれちゃって窓を開けました。優しい風が私の顔に当たって気持ち良いです。環境汚染のひどいエコー三号星では、窓を開けるなどありえないことです。無意識にふらっと夜の街に出ようとしたら、ビジネスホテルのエントランス止められました。  さりげなく宇宙人の警護している私服の男性警察官です。ちなみに、地球人のイケメン男性です。 「こんばんは、カミオカ・アリサさん。外出許可証を見せていただけないでしょうか?」 「え? これですよね?」  ビシッと滞在許可証とパスポートを見せたんだけど、それ以外に”外出許可証”がなければホテルから外出できないんですって! セナコさんはどうして教えてくれなかったんだろう?  警察官によれば、外出許可証は、地球の国連に三日以上前に申請しなけらばならないそうです。知らないってば! ”この星のお役所仕事ぶりは、エコー三号星なみである”と書いてやろうかと思いました。  しかし、前もって調べなかった私のミスなので、やめておくことにしました。  それに、もし外出許可証なしでホテルの外に出たのがバレたら、強制送還になっちゃう、とも教えてくれました。それでも、何とか外に出たいでしょう? パスポートに三万円ほどはさんで、警察官に渡しました。 「カミオカ・アリサさん、警察官にわいろを渡すことは日本では犯罪です。今度同じことをしたら逮捕します」  警察官は規律がしっかりしているみたい。治安が良いのは、このおかげもあるんですね。警察がしっかりしていることもメモに取りました。  でも、私はこの日本の人々と心の触れ合う出会いがしたいんです。ホテルの客室に戻り、ノートパソコンを地球のインターネットに接続します。  ”出会い”と検索し、出会い系チャットというのを見つけ、すぐに登録しました。たくさんの人がいるので楽しそう! すぐにビデオチャットに参加しないと。  ハンドルネームは”亜里沙”にし、私が入室したら多くの男性がボイスチャットで声をかけてくださいました。でも、女性は少ないみたい。 「亜里沙さんは女性ですか?」  何人もの男性からしつこく聞かれるのが、うっとうしいけど、これも日本の文化なのでしょう。相手の男性はボイスチャットのみだったので、私もウェブカメラは外して、ある男性がいるチャットルームに入室して、ボイスチャットで話しかけました。 「こんばんはー、私は女性です」 「あーそーかい。声だけならボイスチェンジャーでごまかせるからさ、他の部屋に行ってよ!」  怒らせちゃった……。チャットルームから追放されました。顔を見せるのが日本のマナーだったんでしょう。知らないとはいえ、日本の方に不愉快な思いをさせてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいです。私は急いでウェブカメラを取り付け自分の顔を映し、チャットのロビーから全員に呼びかけました。さっきの男性が、一番最初にチャットルームに招待してくれたので、すぐに再入室しました。 「亜里沙さん、先ほどは疑ってすみませんでした」 「いえ、私こそ顔を映さず大変失礼しました」  怒りを納めてくださって良かった。男性も自分の顔を映し初めて、突然、陰部をウェブカメラで見せてきたんです。私の故郷なら変態だけど日本では普通のことなのでしょう。  はっきり言って気味が悪いし、見たくもありません。さっきの罪滅ぼしだと思い、耐えながらうつむいていました。どうして良いか分からないままの私に、男性が話しかけてくれたんです。 「亜里沙ちゃん、すっごくかわいいね、おっぱい見せてよ」  日本では初対面の人同士で、エコー三号星では、隠すような場所を見せ合うのがマナーのようです。トラベルライターとして、今まで異星人の文化は最大限尊重するようにしてきたつもりです。  しかし、絶対に見せたくないので、申し訳ないまま答えました。 「ごめんなさい。本当にごめんなさい」 「じゃあ、パンツ見せ……」  恐ろしくなり本能的に、ノートパソコンのコンセントを抜いていました。私たちと違う、気味の悪い文化、いえ、価値観の違う文化についても、しっかり書かないと。  気持ち悪くなり、横になっても眠れないので、再び窓を空けました。さっきより強い風が当たって、気持ち良い! 生まれて初めて、窓を開けたまま寝ました。  気がついたら朝になってって、寝坊しちゃったんです! 宇宙観光バスの時間までぎりぎりです。急いで朝食をカメラに収め終え、昨日と同じタクシーに乗りました。運転手さんも同じ中年男性です。  でも、私は昨日と違いました。もし、見せてと言われたらどうしようか? 不安なまま足元を見ていました。笑顔で何かを聞かれる度にびくびくして、何を話したか覚えていません。  やっと、中京国際空港が見えほっとしたまま、逃げるようにタクシーを降りて、宇宙観光バス乗り場から、昨日と同じ宇宙高速ーバスに乗り込み、とても安心できました。バスの中で急に疲れが出て、眠りながらエコー三号星に戻りました。  帰宅した私は、急いで『地球のぶらつき方・日本編』の原稿を完成させ、ぶらつき出版さんに納品しました。後日、セナコさんと話したら、日本では、複数の男性と遊んだみたいです。うーん、彼女らしいけど、私にはまね出来ないなー。 *  *  *  私の執筆した『地球のぶらつき方・日本編』は、旅行ガイドとしては、異例の売り上げを記録しました。特に男性に売れたみたいです。性に奔放(ほんぽう)な文化を持つ……、この表現には、かなり気を使いましたよ? とにかく、日本が注目されたみたいです。  しばらくしてから、日本に旅行に行った人たちから、クレームの電話が出版社に殺到しました。編集者さんから怒られちゃいました。また、エコー三号星にある地球大使館からも、大事な部分を見せ合う文化は、事実と異なると抗議文が届きました。面倒なことに巻き込まれました。  本当に経験したことを書いたって、地球大使館には、書面で言い返してやりました!  でも、くどいので、私のノートパソコンのデータを送ってあげたら、地球大使館から日本人男性の職員さんから連絡がありました。  私の家まで菓子折りを持って謝罪に来たいと申し出です。見せられたら嫌なので、きっぱりとお断りしました。  その後、数か月間、多くのエコー三号星の男性が地球でハレンチな行為をし、強制送還されたことが、テレビニュースで大きく取り上げられました。私の執筆した『地球のぶらつき方・日本編』も低俗な本として扱われ、嫌な思いです。  テレビニュースに映っている本全体に、ぼかしをかけらちゃっているんです。題名だけでも言ってくれれば、本の売り上げ向上になったかもしれないので、ちょぴり残念かもです。  私は、実際に地球にまで行って取材したんです。でも、一泊二日という短い期間で、インターネットに頼りすぎたのは反省しています。年末年始の休暇を利用します。今度は日数をかけ、外出許可証を取得します。  かなり怖いけど、自分の目と耳で、日本という国の文化を確かめてみようと思います。(完)
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