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お花見と猫と僕。
蛇塚くんと買い出しに行ったけど、未成年でお酒が買えないし食料のジャンルもかたよったので、大人なかたにも来てもらって。
無事買い物を終えて、やっとみんなでご馳走を囲んで乾杯をした。
日差しが暖かく風も心地よくて、絶好のお花見日和。
あたりには同じく花見で盛り上がっているシートがたくさんあって。
子どもたちが元気に走り回っていたり、子犬やら大型犬やら犬たちもリードを引きながら、いつもと違った風景を楽しんでいるように見えた。
ふと、リードにつながれていない動物が草むらから顔を出した。
背中が茶色のトラ柄でお腹が白い、猫。
野良猫かな。
「あ、猫くんだ! おいで」
秋野さんが優しく呼んで手を差し伸べると、猫は言葉がわかるのか、ためらいなく近づいてきてその手にすり寄った。
牧田さんもその猫の額を指で撫でる。
「人馴れしてるね、ここに来る客に色々良くしてもらってるのかな?」
しばらく二人に撫でられていた猫は気まぐれに彼らの手をすり抜けて、僕のひざの横に寝転ぶと、大きく伸びをした。
可愛い。
お腹を撫でてみたい。
けれど僕は、動けない。
無言で猫を見ている僕に、秋野さんが問いかける。
「あれ、隆臣君は猫、苦手なほう?」
「いえ、僕その、猫と遊んだことがなくて」
家で動物を飼ったりしていなかったし、よそでも猫と触れ合う機会がなかったので、僕はどうすればいいのかわからなかった。
「撫で方とか知らないし、慣れてない人に触られたら嫌なんじゃないかな、とか思って」
僕がおっかなびっくり触ったら、この子が機嫌を損ねるんじゃないかな。
動物にもなんだけど。
僕は人に対してもそうなんだよなと、こんなときに僕は、少し自分を省みてしまう。
照れなのか気兼ねして、かしこまってしまって。
自分とは少し違った自分が出てきてしまう。
だましているわけではないのだけれど、なんだかちょっと、申し訳ない気分になることがある。
猫を撫でられないなんて、猫好きの秋野さんにはがっかりな話だったかなと思ったけど、秋野さんはそんな顔はしなかった。
「そんな難しく考えなくてもいいよ。好きなようにすればいいんじゃないかな?」
そして、僕の横に転がった猫のお腹をわしゃわしゃと撫でた。
羽山さんも近づいてきて、シートに伏せるように猫に視線を合わせた。
「そーそー。嫌だったら嫌って言うし。言わないか! なー猫、おまえどっから来たの? ここに住んでんの? すげーな!」
羽山さんが引っかかれてしまうのではないかと、ヒヤヒヤしたけれど。
猫がまた伸びをして、羽山さんの頬に優しく前足が当たる。
羽山さんはそれで嬉しそうな表情になって、秋野さんに続いて猫のお腹を遠慮なく撫でた。
みんな猫に好意を持っているのだから、嫌がるようなことをするわけなくて。
猫のほうも気をつかうなんてまずしないだろうから、嫌じゃないから、もしかしたら嬉しいから、ここから去らずにくつろいでるんだろうな。
猫はまた気まぐれに身をひねって起き上がり、歩き出す。
そして無言でコーラを飲んでいた蛇塚くんの膝に乗ると、丸くなってくつろぎ出した。
「あー、なんなの?」
蛇塚くんは笑顔になったりはしなかったけど、猫を邪険にしたりせず、コーラにまた口をつけながら猫の背中を撫でた。
「なんか可愛い」
「猫くんが?」
「蛇塚くんが」
みんなで微笑ましくその光景を見ていると、またまた猫が起き上がって歩き出す。
その猫を牧田さんが捕まえて、自分の肩に乗せた。
猫は目を丸くして、不思議そうな表情。
「俺の使い魔」
言って牧田さんが立ち上がると、猫は慌てたように牧田さんの腕を駆け下りた。
牧田さんは申し訳なさそうな顔をして、しゃがみ込む。
「これは嫌だったかー。ごめんな、もうしないから」
牧田さんが謝りながら手を差し出すと、猫はまた寄ってきて手に鼻をこすりつけた。
嫌われたんじゃなくて、びっくりしただけなのかな。
猫との接し方って、色々あるんだなって、僕は思った。
人それぞれ。
共通しているのは、相手を想ってるってこと、かな。
僕は猫に対してどうすればいいのか、なんとなくわかってきて。
わからないことはこうやって周りから学べばいいのかなって、思って。
でも色んな接し方があるから、僕はどうすればいいかな。
相手を想って接したいように接すれば、自分なりの想いで接すれば、いいのかな。
牧田さんの手に甘える猫に、僕は手を伸ばして、あごの下を撫でてみた。
猫くんは気持ちよさそうに首を伸ばして、目を細める。
僕の適当なこの撫で方でも、大丈夫なんだ、受け入れてくれるんだ。
嬉しいし、安心した。
調子に乗って耳の下を撫でてみると、猫くんはもっと気持ちよさそうに僕の手に頭をすり寄せて、僕が撫でてることを堪能しているように見えた。
「猫くんも隆臣君のこと、気に入ったみたいだね!」
秋野さんにそう言われて、僕はなんだか、自分の中にあった壁みたいなものが一枚、剥がれ落ちたような感じがした。
かしこまらないで接することが、僕にもできるんだって。
猫くんにそう、教えてもらったような。
僕は両手で猫くんの頬に触れて、お礼を言った。
「ありがとう。僕と仲良くしてくれた猫くんは、きみが初めてだよ」
猫くんは僕の手を両手の肉球でとらえるようにした。
猫ってこういうこともするんだなって、面白いなって。
嬉しいなって、また思った。
僕は素直に自分らしく、周りの人たちに接することができるようになりたい。
少し強い風が吹いて、満開の桜が吹雪を散らせる。
風流だ、なんて、カッコつけて思わないで。
天気が良くて暖かくて、桜吹雪を浴びたらふわふわしてて気持ち良さそうだなって。
そして僕らしく、桜吹雪を見ると和風な某戦隊のオープニングを思い出すな、あれ一番好きなシリーズなんだよなとか、雰囲気ぶち壊しで思ったりして。
同じ屋根の下に住んでいるみんなと、そして猫一匹と、桜の木の下で遅くまで、僕はとても楽しい時間を過ごしていた。
了
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