百々目鬼怪談文庫 竜星編 天狗の円火

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「それも怪異ではない、酸欠による幻覚だ」 アイスティーを飲んでいた星宮先輩は断言した。 「メタンガスによる酸欠と、それに伴う幻覚を仮定した場合。ある報告に拠れば幻覚を見る程の酸素濃度6%〜10%の酸欠では、意識喪失、全身麻痺、死の危険、が伴うそうなので体験者の少年に助けを呼ぶ意識がある事から合理的ではないと思うのです」 「意識が朦朧としていても、助けは呼べる。 発火と酸欠の仕組みは…。個室に小窓があるから、個室内に発火の為の酸素を供給出来、ライトのスパークでメタンに着火する。メタンの弱い燃焼で、小窓からの供給量よりも多く酸素を燃焼し、個室内で力む利用者は酸欠になる。酸欠による幻覚を見た仕組みだ。 当時、一世を風靡していたトイレの怪談を植え付けられていた体験者は、そのまんまの幻の怪異を視た」 僕はただでさえ取材時に「ベタベタな怪談だなあ」と怪談コンテストへの応募を躊躇った、あの時の予感が、「怪火系の怪異は自然現象として周知されていて、怪異として認められないだろう」という危惧が当たってしまったのだと、悔しくて心の狭い謎解きヲタの先輩を睨み付けた。 「星宮部長に優しさを求めて裏切られた目付きですね」 早姫さんが揶揄う様に言った。 「斬新な謎解きなら、ミステリーの読者の様に楽しめたけど、あんなベタベタな推理(仮説)では…」 「謎である怪談がベタベタだからだ。必然的に怪の解もベタベタになる」 ああ、言われた。指摘される予感がしていたんだ。 「これじゃ、尻を触られた少年も浮かばれない」 「君の質問に、メタンの炎で尻が火傷しないのか、というものがあったな。便は回収後だから、遥か下で燃えていて、尻が焼かれる事は無い」 「ちょっと、そこの男子高校生、探偵気分で御満悦かい?」 ヒゲの男性が先輩に話し掛けた。 「そっちの女子高生はウェイトレスの仇討ちに立ち上がったのだろうけど、弱々しい怪談だったな」 星宮先輩が、コップの底のアイスティーをストローで啜りながら 「ズズ…そんな貴方は…ズズズウ…誰ですか?」 「我妻雅という怪しい者だ」 差し出した名刺には、怪談作家と肩書きが。怪しい人物かもしれない。本人も、そう言ってる。 最も、怪談好きが集まる怪談喫茶の怪談会に於いて、怪談作家が参加していても何ら不自然さは無い。 「酸素の供給は、小窓からでは無く、他の供給口からではないかな。直木賞作家の高橋克彦の作品「大好きな姉」に、主人公が便所内を汲み取り口から覗き見る(くだり)がある。昔の汲み取り式便所には、そういう物があった。H小学校の便所の個室に酸素を供給していたのは、間違えて開けっ放しだった汲み取り口だと思う」 凄い、星宮先輩よりも上の謎解きヲタが現れた。 「では星宮君、この怪談を推理してくれ、文庫さんと同じく怪火を扱った怪談だ」
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