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黒塚
処は陸奥国二本松藩南部にて、これ見目麗しき、女人有りし。
名を『羽生結弦』成りし。
小年増なりしが、その美しさ、名に掛けては巷では『羽衣結弦』と呼ばれしが、あまりの美しさに藩内に嫉妬や妬みし宣えば『男を惑わす悪女にて』と根も葉もない噂ばかりが先に立ち、羽生結弦困りして、家から、出なきし、今日この頃成りし。
父母困りし途方にくれるや、いかんせん、悪評高き噂にて羽生結弦、自ら男を寄せ付けなんだ。
そんな、羽生結弦を離れ部屋にて囲うが如し両親成りし。
ある晩、無付けき男衆これ幸いと離れ部屋の『羽生結弦』襲いしが、手籠めにされたる。
三っ月もすれば、子が出来し羽生結弦。
十月十日には玉の様な男の子が産まれして、はてさて両親共に、『羽生結弦』目を離した隙に男の子を遠く離れし処にて預け候成れば『羽生結弦』気も狂わんばかりに、男の子を探したるが如し。
『羽生結弦』我が子を探し旅に出るも、早数十年が経ちして、山奥に居をなすれば、あばら家成りし。
居を成して、最早数十年間経ちし。
陸奥国の冬は早かれ、寒空に一人の僧が『羽生結弦』あばら家に『今宵一晩軒下借受泊めてくれまいかと』訪ねし。
『羽生結弦』僧を泊めたるは徳の積みしと、是非にと言ってのけ候成り。
その晩、細やかなれど、『羽生結弦』若き僧をもてなした。
したたか酔った僧はその場にて寝入って候。
はたと気が付けば、僧を泊めたる御婆は刃物を研ぎてし。
刃物を研ぎしその周り、骨が囲みし異なる有様。
『さては、己れ、安達ヶ原の鬼女なるや!』と僧が問えば。
『この骨は獅子為れど』と御婆が答えし。
『ならば、問う、その髑髏は如何な者か?』
『これは、お前様と同じく旅人為れど、病にてこのあばら家にて仏となりし!』
『エェイ、黙れ、黙れ、この鬼女が!』と僧は持ち至る、錫杖伝(金剛伝)にて鬼女目掛けて付き通した。
鬼女は『これも、致し方無い、オレは里子に出されし、我が子をこの山にて、いつか出会うと思惑ば、さてさて、この有様』と死際にて宣った。
ハットした僧は『お前様の名は?』と聴きしか、鬼女は事切れていた。
僧は鬼女の着物に縫いたる名を見れば『羽生結弦』と縫われしていた。
これが己れが探していた母親成りし。
嗚呼哀しや、悲しや!
「陸奥国、安達ヶ原の黒塚に 鬼こもれりと我が子を待たんと聞くはまことか」
「陸奥国、安達ヶ原の黒塚に 鬼こもれりと我が子を待たん聞くはまことか」
〜お終い〜
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