第一章 出発

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 これには美樹が仰天した。  「なに? おかあさんって、まさか?」  「こ、これは大人の話だから……」と、岩井はごまかそうとしたが、彼女は騙されなかった。  「都合がいいときだけ、子どもあつかいすんな!」と、美樹は叫び、さらに問い詰める。  で、「あんた、なんでわたしをおかあさんと呼んだの! え! どうして呼んだのよ!」と、青年に訊けば「そ、それは、おれのおかあさんだから」と、ボソッと答えたではないか。  まるで子供がすねたような態度だ。  これを見て、美樹は(さてはマザコンだな、このやろう!)と、瞬時に青年の性格を見抜いた。  ハンサムだが針金細工のようにひ弱な体型で、あきらかに美樹が忌み嫌う草食系男子だ。  おまけに自分の父親と顔がそっくり――第一印象は最悪の一言で、(うわぁ~、これがわたしのむ・す・こ)と、美樹は思ったが、なぜか、とことん青年を嫌悪する気になれなかった。  (やだ、母性本能がめざめたのかしら)  その反面、いきなり母親だと言われて、それを受け入れられず、「こんなデカイ息子なんか、おらんわ! どう見ても四歳も年上だよ、あんた! そ、それが息子って、ありえんだろうが!」と、ムダと知りながら拒絶してみた。  すかさず、岩井が青年をかばいはじめた。  「おちついて、お義母さん、ここは三十年後なんだから、二十歳の子供がいても、ちっとも変じゃないの!」
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