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「えっ、急にどうしたの?」
富松から問いかけられた疑問は至極当然の事で心の中で乾いた笑いが漏れる。
「東雲の騒ぎがあったのわかる?その時富松が高端にもたれてる姿が見えてさ。その後東雲に絡まれてた奏って奴と親しそうに消えてったからそうなのかなって思ってさ。」
戸惑う富松を無視してわざと体を密着させて隣に座ると体が強張るのがわかる。わざとやっていることに果たして富松は気づいているのだろうか。いや、気づいていないだろう。
「なんで緊張してるの?」
少し笑いを含んだ声で声をかけるとギブアップなのか席を立って露骨に距離を置かれる。
「久しぶりに再会したクラスメイトとこんな近い距離で話してたらそりゃあ緊張するよ!それになんか今の武松変!びっくりする。」
富松は両手を目の前にだしてNOとでも言うように顔を背けている。その手を掴んで体を引き寄せれば当然のようにこのホテルのバスルームに設置されているボディーソープの香りがして。
「・・・さっきの発言、やっぱなしって言ったら怒る?」
「何が…?っ、!!たけま……っ!」
唇から零れる声を無視してキスできるくらい顔を近づける。真っ直ぐに静香の瞳を見つめれば戸惑いを隠せないのが分かる。
「な、なに…?」
「昔は静香の方が俺のこと好きだったのにな。」
小学生の頃、気づいたら好意を持たれていて友人伝いにその気持ちは伝わってきた。でも彼女は自分で思っていたよりかなり恥ずかしがり屋だった。
気持ちは伝えたい。
けれど俺と面と向かって告白するなんて恥ずかしいことはできない。
でも大きく育ちすぎてしまった好きという感情をとどめておくことは出来ない。
結局かれこれ10年近く片思いされていたと思う。
その長い時間の中で俺が彼女の気持ちに答えることは決してなかった。
今、あの時の自分にあえるのならば迷わず《捕まえておけ》と言ったかもしれない。まぁ自分の性格からして素直に従う気が全くしないが。
富松はびっくりして抵抗することを忘れている様子なのか。それともまだ俺が言った何もしないという言葉を信じているのか、
最初からそのつもりでこの部屋に連れてきたのに。自傷気味に笑って細い腰に腕を回してさっきよりもさらに近づく。
「静香……」
名前を呼んで白い首筋に顔を埋めればもう止められなかった。
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