追憶と現実

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「何か今日はいいことあったのかい」 皿が空になった頃おっちゃんが話しかけて来た 「まぁ…あったと言えば…あるかな」 すれ違った雪野の姿を思い出しながら、ビールを喉に流し込む 前に会った…と言うか、見た時より綺麗になっていた うなじが見える程度の髪は変わらない 昔からそうだ、あれくらいの長さのまま微妙に髪型を変えたり変えなかったり…だからすぐ分かる 唯一長かったのは成人式の時くらいだ あの時は髪を上げた着物姿が可愛かったな… 「何…女か?」 はっと意識を戻すと、おっちゃんが嬉しそうににやけていた 顔が緩みまくっていたに違いない 「まぁ…そう言えば…そうなるけど…」 胸を張って言えるような事ではない すれ違っただけなのだから それでも…俺にとっては大切にしたい大きな出来事 「例の子に会えたのか?」 「それって…?」 雪野以外に思いつかず首を傾げた 「忘れられない、ずっと好きな子」 それを言われた瞬間、喉に行っていたビールが吹き出しそうになった おっちゃんは変わらず嬉しそうに笑っている 「おっちゃんには何も逆らえないや」 報告できるような話でもないに小っ恥ずかしくて頭を掻いてしまう 「上手くいったら報告しろよ、直君には幸せになって欲しいから」 「ありがとう」 裏表ないおっちゃんの気持ちが笑顔と一緒に伝わってきて嬉しくなった 本当にここは第二の故郷だ まぁ、いい報告が出来るのはいつになるか分からないけど
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