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プロローグ
アイドル。
それは、崇拝される偶像を指す。
その生き様だけで他人を魅了し、存在だけで信仰を得る程の己を持つ者。個性を持つ者だけが成るべき、美しくも儚き魔境の世界に座す住人。その輝きだけで皆を幸福にさせる、スーパースター。
職業と言う堅苦しい枠には決して収まらず、その在り方は古今東西十人十色。闇があるから光が輝き、光が照るからこそ闇は深く、決して綺麗事だけではない世界で様々な苦労を乗り越えてステージの上に立つ彼らアイドルを、とある男はこう讃えた。
現人神。
……愛を受け、輝きを増すアイドル達を、そう例え。だからこそ、それ程までに希少な彼らを守らねばならない、個性を潰してはならないと心から願う男が、いた。決して、自分と同じ道を辿らせまいと、アイドルの世界へと舞い戻って来た男がいた。
「…ん?何?話が聞きたいだけ?まあ、うちの所属の奴らは皆言ったんだよ。だから先に言っておくわ、どうせお前らも入りたくなる。…というより、俺達が入らせてみせるんだわ。往生際が悪いおっさんに捕まったと思って諦めな」
紫煙を燻らせ、ビル裏の小さなスペースで久しぶりに煙草の味を嗜んでいた筈の男は。着信があったスマートフォンに表示された番号を見るなり、灰皿の中に煙草を葬り、夢中になって言葉を出していた。まるで、曇空の中に浮かぶ煌めきの星を目にしたように。砂漠で一粒の砂金を手にした者のように。
「ようこそ、エゴイストプロダクションへ」
ーーお前達も、我儘に生きていい筈なんだ。
これは、その言葉に幸福を見出したアイドル達が彼らだけの人生を、胸を張り真っ直ぐ生きて謳歌する…そんな当たり前ですら許されなかったことを、当たり前に叶える、些末な幸福譚である。
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