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ずぶ濡れの猫
どのぐらいたっただろう…病院に入るわけでもなく、帰るわけでもなく、まだ車の中にいた。
すると携帯が鳴る。
ホラッ、たいした事なかったんだ!ホッとしたような気持ちで携帯の画面を見た。
画面には菜々ではなく、同級生の名前が表示されていた…
「あれ?もしもし??」拍子抜けしたような声で出ると俺の同級生…木村春馬(はるま)が
「お前の彼女…菜々さんだったよな?今さっき病院に運ばれてきたぞ…ちょうど当直で俺がみたけど…かなり体調も悪かったみたいで貧血おこしたんだろうけど……」何だか言いにくそうに言葉をつまらせる。
何度か付き合ってる間も貧血で倒れたり、意識を失うのは見てきたので、さほど焦らなかった…ひどくても注射や点滴などすれば落ち着いて帰れる程度だったし…どちらかと言えば、同級生がこの病院にいた事の方に驚いたぐらいだった。
「よくあるんだよ…春馬がみてくれたんなら、もう大丈夫なんだろ??迎えに行った方が良いのか?もう家族が来てるんなら、それも大丈夫かっ」楽観的な俺の声に春馬は言いにくそうに続きを話す…
「あのな……菜々さん、大丈夫なんだけど…何でか分からないんだけど、目が覚めないんだよ……」
俺はその言葉で凍りついた。
春馬からの説明などを聞こえているのに、頭に入ってこない…返事をするのがやっとだった…電話を切るとやっと車からおりた。
それでも病院に入る訳でもなく…雨の中。
気持ちは焦っているのに、どうしていいか分からない…とりあえず車に座ったままでいる自分にイライラして外の空気が吸いたかった。
「何やってんだ…俺は…こんなときでも、どうしたらいいか分かんなくて、何もしなくて…何もできなくて…またイライラして」
逃げてはいけない現実から、それでも逃げたいと思ってしまってる自分に大声で叫びたいほどの怒りを抑え込もうとした時…俺の車の影に何か落ちてるのが目に入る。
ずぶ濡れになった猫が、ぐったり横になっていた。
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