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情けない男
「まさか!ひいちゃったのか!?」急いで俺は猫に駆け寄り確認する。
大事なはずの彼女には、すぐに駆け寄れなかったのに…
「大丈夫か?ケガもしてないみたいだし、息はしてるのに、どうしたんだ??」
俺は、とりあえず車にあったタオルに急いで猫をくるみ、助手席に乗せた。
そして、エンジンをかけた…気付けば、病院の駐車場から出て、自分のアパートに向かっていた。
早く乾かしてやらないといけないんだ…
俺は猫を言い訳に、その場から逃げた…
「菜々は病院でみてもらってるから大丈夫…お前は俺が連れて帰ってみてやるからな」冷たく、ずぶ濡れの猫を抱きかかえ帰宅した。
温めて乾かし、一緒に布団に潜り込んだ…
「調子悪かったのか??ごめんな…すぐ気付いてやれなくて…もう大丈夫だからな」
本当は彼女にかけないといけない言葉と分かっていても、言えなかった…出来なかった言葉を猫にかける。
温かくなった猫は、俺を見つめている。
抱きしめているはずなのに、不思議と自分が抱きしめられているかのような安心感を感じた…
どうして、猫には出来た事なのに…菜々には出来なかったんだろう…気付いてやれなかったんだろう…こうやって一緒にいたかったってだけなのに、俺に恐る恐る聞いてこないといけない菜々の怯えるような目から逃げてしまった…情けない男なんだ…俺は。
「難しい事じゃないのに、最低な言い方すれば…めんどくさかったんだ…気分じゃなかったんだ…やっぱり俺は、誰か人間と深く関わるのが苦手なんだよ…これ言ったら、どう思われるだろうとか…何て言われるだろうとか…こんな男で、ごめんな」
謝る相手は、この猫ではないはずなのに…
その言葉を聞くと猫は、まるで分かってるよと納得してくれるように瞳を閉じた。
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