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100回目の自殺防止
やっと見つけた。
今日は理科室かよ。
彼女はいつも神出鬼没だ。
放課後一人で校内を走り回る俺の気持ちを考えろ。
「何してんだよ。」
「塩酸とアンモニア混ぜてんの。」得体の知れないものを見つめる彼女の瞳は、世界中の幸せを詰め込んだようだ。
「は?何で。」
「飲んだら死ねるかなあって。でもなんか白い煙出てきた。マズそ、やっぱやめた。」
こいつ、アホだ。
「そんなことすんなら、保健室にでも行って消毒液飲めば良いだろ。」
「ナイスアイデア!その自殺こそ私の栄えある100回目の自殺にふさわしい。早速行ってくるね!」
全部失敗してるけどな。
うわマジか。
自殺志願者の頭がいかれた彼女には「消毒液を飲む」という行為は、冗談に聴こえなかったらしい。
しかし、俺はその栄えある100回目の自殺を見事、栄えある100回の自殺防止にしてやる。
彼女とは別ルートで保健室にダッシュする。
そして保健室に到着すると、保健室の先生に頼んで部屋中の消毒液を持ってきてもらい、ベッドの中に隠した。
それから3分ほど経つと「失礼します。消毒液ありますか。」と、言って保健室に彼女が入ってきた。
大丈夫だ。今回も成功する。消毒液と同じベッドに入って、心を落ち着かせた。
「あ、有ったー。」そう言って、俺と消毒液が入ってるベッドの掛け布団をはがした。やばい。
「何でお前はそんなに死にたいんだよ。」こうなったら強行突破だ。隠してだめなら自殺自体諦めさせてやる。
生きてる意味が解らないなら俺が、一緒に探してやる。
だけど、彼女の口から出てきたのは意外な言葉だった。
「生きてる意味を知ったからだよ。」
え?俺は一瞬戸惑った。それから彼女は続けて、「生きてる意味を知れたから、良し未練はない!っていうことじゃなくて、その生きてる意味が死にたくなるような内容だったからだよ。簡単で単純だったよ。解るまで一分もかからなかったんじゃないかな。」
いつもの世界中の幸せを詰め込んだ瞳ではなくて、彼女一人では耐え切れない何かを、背負ったような瞳だ。
それから瞳に涙を浮かべて、いつものように笑うと「だから」と言って、消毒液を持って、蓋を開けた。
「ごめんね。」
ガシャン!!!!
大きい音を立てて消毒液が入ったビンは割れた。俺が落とした。何回目だよおい。
「死なせない!お前のことは、俺が絶対守る。死にたくなるような内容でも、お前は今生きてる。俺が、お前の笑顔ごと守ったから。」
彼女は自殺はやめないが、今回はやめることにしたそうだ。
俺の勝ちだ。
これで、栄えある100回目の自殺防止だ。
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