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1話
彼をはじめて見かけたときのことをわたしが珍しくはっきり覚えているのは、ちょっと不思議な状況だったからだ。
確か四月のはじめのころだった。
当時近くの公園では桜が満開で、通勤途中、自宅から駅までのわずかな距離にある癒し空間だった。
花見日和ともなると、ベンチはすぐに埋まり、ブルーシートを敷いてお弁当を持参する家族も多くいた。
でも、その日はあいにくの雨で――ああこれじゃ、桜が散っちゃうな、なんて傘をさしながら通り過ぎようとしていたとき、ベンチに人が座っているのが見えた。
この雨の中、傘もささず、ただそこに座っていたのだ。
全身びしょ濡れで、長袖Tシャツ、ジーンズは水を吸って色濃く重たげで、でも妙に手足の長さが際立って、明るめの茶髪もぺったり張り付いてた。
若い青年だった。
天気の良い日に日向ぼっこしている、みたいな無頓着さだった。
わたしはぎょっとして足を止め、迷った。けど傘は自分がさしてる一本しかないし、いまは通勤途中で早く電車に乗らないとまずい。
いまから家に引き返して傘をもう一本取ってくる、なんてことをやったら電車に乗り遅れてしまう。
結局、そのときは後ろ髪を引かれる思いをしながらも歩き出した。
ひどくいたたまれなくて、自分が薄情な人間に思えた。
春の天気というのは本当に気まぐれで、それだけで幸せになるぐらい晴れることもあれば、次には重たい曇りになったり、いきなり冷たい雨を降らせたりする。
びしょ濡れ青年を目撃した日、わたしは会社にいる間中、そわそわして落ち着かなかった。
退社して急いで公園に向かった。小雨がまだ降っていたけど、あの青年はもういなかった。
その次の日は昨日の雨なんてうそみたいに晴れていて、びしょ濡れ青年もいなかった。
なんとなく安心した。けれど、あの青年はいったいどんな事情があったのだろう。
もしかして家出とかだろうか。なんだかドラマみたいな妄想をしてしまった。
でも、鞄に折りたたみ傘を余分に入れておくことは忘れなかった。
――結局、折りたたみ傘の出番はなかった。
三度目に彼に会ったとき、つまりわたしが彼に話しかけたとき、季節は初夏だった。
雨の気配はなく、夏の暑さがはやくも感じられる日のことだ。
休日、今年初のアイスを買うためコンビニへ向かう途中、彼がベンチに座っているのを見た。
一人だった。
雨は降っていなかったけど陽射しはかなり強く、わたしは日傘をさしていた。
彼はその日もまた、雨の日と同じようにぼんやりとベンチに座っていた。雨が降っていようが降っていまいが関係ないという感じだった。
あの雨の日から――なんとなく、彼のことが忘れられなかった。
びしょ濡れになるほど雨に打たれて、それでも無頓着に一人ベンチに座っていて、いったいどうしたのだろうと気になってしまっていた。
公園にあった自販機で缶ジュースを二本買う。それを持って、やけにどぎまぎしながら彼のいるベンチに向かった。
少し距離を置いて、左隣に座る。
「……こんにちは」
そう声をかけると、彼はちょっとびっくりしたようにわたしを見た。
声をかけられてようやく、隣に他人が座ったことに気づいたらしい。それでも慌てたように、こんにちは、と返してきた。
わたしはすかさず言った。
「暑いですね」
「……そうですね」
「よかったらこれどうぞ」
「えっ!? ええ、いや、悪いです……!」
缶ジュースの一つを差し出すと彼はひどく驚いて慌てたが、やがて恐縮したように受け取った。
真面目そうな青年だった。
髪は茶色がかってるが、たぶん地毛だろう。どことなく繊細な雰囲気があって、目元が若い……というか童顔のようだ。
缶ジュースを差し入れるというのは、職場のマダムたちがよくやっていた。この季節は喉が渇きやすいのでだいたい相手に喜ばれる。家庭をもったマダムたちはコミュ力が本当に高く、わたしもまるごと真似をさせてもらったりしている。
ぷしゅ、と音をたててプルタブをあけ、ストレートティーを飲む。
わたしが先に飲んだことで、青年もおずおずとそれにならった。喉が潤うと、少し気がゆるむ。
「……勘違いだったら申し訳ないんですけど。あの、春頃からこの公園に来てます?」
本題を切り出すと、青年は驚いたような顔をした。それから照れくさそうな、少し困ったような笑いを浮かべた。
「はい、そうです。見られてましたか」
「ここ、毎朝通るんです。ちょうど雨が降ってたときで、あなたが傘もささずここに座ってたのを見まして」
「あ、あー……」
かなりの苦笑い。が、わたしもちょっとは気まずさがあった。
「傘を貸すでもなく、そのまま通り過ぎちゃったってことなので、何言ってるんだというところではありますが」
「え? いや、全然気にしないでください。そんな……でもああ、ぼーっとしてたのを見られたのは、なんとも恥ずかしいっす」
ぼーっとしてた、というのでわたしはちょっと面食らった。
……雨の中でびしょ濡れになりながらベンチに座るのは、“ぼーっとしてた”の範疇なのだろうか。
「風邪ひきませんでした?」
「大丈夫です。体はまあ、そこそこ丈夫なんで」
「そうなんですか。お仕事とか、何されてるんですか?」
何気なく聞いたあとで、ちょっとまずったかな、と思った。
真面目そうな青年だけど、どうも普通の会社員とは違う気がする。
その証に、青年の頬がちょっと強ばった。ああ、とかええと、と言ってから、ふわっとした髪の後頭部をかいた。
「……一応、漫画家やってます。ほとんどフリーターみたいなもんですけど」
「えっ! す、すごいじゃないですか!」
かなりびっくりした。が、納得させられる雰囲気があった。
「漫画家っていうと……週刊少年スキップとか、ああいうのに描いてるんですか?」
「いえ、そういう大手には全然。売れない漫画家なんで」
青年は苦笑いした。
わたしの知ってる漫画といえば、有名な作品しかない。大手漫画雑誌のスキップ以外、どういう漫画雑誌があるのかもわからない。
けどたぶん、青年はそのどれかで描いているんだろう。
自分のまわりにこういう職業はいなかったのでちょっと興味がわいて、色々つっこんで聞いてみたい気もした。
が、彼はそれ以上言わなかった。大きな手の中で缶をもてあまして、ぼんやりと前を見ている。
あまり突っ込んでほしくなさそうだ。それに――フリーター、みたいなことを言っていた。
印税生活というとリッチであるかのような想像をしてしまうけど、違うんだろうか。アルバイトしながら、ってことはあまりもうかっていないのかもしれない。
とぎれとぎれになりながら、世間話のようなことをした。
彼はあまりトーク力のあるほうではないようだった。でも話を振るとしっかり拾って答えてくれるので、自分から話しかけるのが苦手なタイプなのかもしれない。
世間話っぽいことをして、でも結局名前は名乗らず別れた。なんだか、電車で隣の席になった行きずりの仲みたいなものに似ていた。
それから少し間があいて、わたしはまた公園で彼を見かけた。ベンチに座った彼もこっちに気づいて、お互いに会釈だけした。
――彼、仕事してるんだろうか。
毎日会社員をやってるわたしは、なんとなくそんな心配をしてしまった。
さらにその後、不定期に彼は公園のベンチに出現し、挨拶だけしたり、普通に世間話をしたりしなかったりした。
彼は近くに住んでいるらしい。
相変わらず名前は知らない。挨拶すらできない、というか向こうがぼんやりしててこちらに気づかないときがある。
どうやらぼんやりにも種類があるようで、話しかけてほしくなさそうな“ぼんやり”もあった。そういうときは挨拶もせず通り過ぎることにしていた。
そんな奇妙なご近所付き合いみたいなことをして、彼を公園で見かけたり見かけなかったりして、いつの間にか月が変わり季節も変わった。
――また、春がやってきた。
わたしの備えは、一年越しでようやく実を結ぼうとしていた。
今年も気まぐれな雨がふらっと四月のはじめに降って、律儀にそれに合わせるみたいにして、彼はベンチに座っていた。
自分で傘をさし、そして鞄にしのばせていた折りたたみ傘をもう片方の手にして、わたしは彼に近づいた。
彼の頭上に傘をさしてあげるまで、彼はわたしに気づかなかった。話しかけにくいときの“ぼんやり”とはわかっていたが、この雨の中を見過ごすわけにはいかない。
「もしかして雨と桜の組み合わせが好きとか?」
わたしがそう言って笑うと、彼は本当に驚いたような顔をした。
それからびしょ濡れにもかかわらず、何度か見た、照れくささと困惑のまじったような顔をした。
「や……僕、ほんと間が悪いっていうか……」
「風邪ひきますから、すぐ家に帰って着替えるかシャワー浴びるかしてください。この傘使って」
「え!? い、いやいいです、どうせもう濡れてるし……」
「帰るまでは防げますよ」
わたしは半ば強引に言って、彼に傘を押しつけた。
普段あんまりこういうことはしないのだけども、そこそこ見知った仲だし、真面目で繊細な彼がどことなくほっとけない。
彼は缶ジュースを渡したときと同じく、恐縮しておずおずと受け取った。
明日返します、と申し訳なさそうに言った。
翌日は土曜で、また昨日の雨が嘘みたいな晴天だった。それでも桜はだいぶ散ってしまっていて、地面に無数の小さな白い点をつくっている。
彼はすでにベンチにいて、わたしに気づくとさっと立ち上がった。
「傘、ありがとうございました」
「どういたしまして。風邪ひいてません?」
「大丈夫です。体は丈夫なんで」
前に聞いたときと同じ答えがかえってくる。
きれいに乾かされ、ぴっちりと折りたたまれた傘と一緒に、彼は缶ジュースを差し出してきた。わたしはありがたくその両方を受け取った。
自然と二人ともベンチに座る。
よく晴れているけれど、花見客はあまりいない。雨のあとだし、花見日和はもうすぎてしまったということか。
ぽつぽつと世間話をしたり、会話が途切れたりした。
わたしと彼はなんだか不思議な関係だった。姉弟のような空気でもあるけど、そこまではっきりと親しいわけじゃない。
「……漫画、がんばってる?」
わたしはなんとなく、そう聞いてみた。
彼はちょっと意表を衝かれたような顔になり、それから苦笑いした。
「まあ、相変わらず売れてないっていうか……。迷ってるって感じです」
「迷ってる?」
「ええ。結局一年間ぐだぐだと……。実は、一年前、ここに座ってたとき……あの日も雨でしたよね」
「そう、だね」
わたしがうなずくと、彼は手の中で缶ジュースをもてあそびながら、花弁が散って白さを失いつつある桜の木を眺めながら言った。
「あのとき、漫画を本気でやめようと思ってたんです」
ぽつりと彼は言った。深刻そうでもない、少し乾いた、けれど笑うのもはばかられるような態度で。
どうして? と、わたしは短くそれだけ言った。
「……色々重なっちゃって。編集が変わったんです。あ、担当編集のことです。いままでよくしてくれてた人が異動になって、新しい編集さんになって二年ぐらいやってたんですけど……その人とまったく合わなくて。ついに大喧嘩しちゃったっていうか。僕がキレちゃって」
わたしは驚いてしまった。この繊細そうな――もうちょっといえば頼りなさそうで声を荒らげそうもない青年が、キレるなんて想像もできなかった。
「まあ、色々細かいとこ合わなかったりしたんですけど。担当は、結局僕の漫画が好きじゃなかったんだと思います」
大きな手のひらが缶に触れ、ろくろを回すみたいな動きをした。
「担当の修正指示が、合わなくて。それやったらキャラ崩壊しますけど、とかつじつま合いませんけど、みたいな感じで。一応反論したんですけど、直さないなら描かせられないよ、みたいな感じで」
「……ずいぶん横暴じゃない」
「売れてないとそんなもんかもしれないです。売れてない僕も悪いってとこありました。デビューしてから六年目ぐらい、ヒットもなくて、編集部のなかでもお荷物扱いだったと思います」
彼の声から、恨みのような響きはあまり感じられなかった。
なかば諦めている、というような――あるいは売れていない自分を恥ずかしがるような、内に沈む響きがあった。
「真面目に描いてればきっと報われると思って、企画つくったり下書きつくったりして、編集に見せて何度も衝突してってことをやってました。なんだかんだ一年ぐらい……それでまったく進まなくて、ボツの繰り返しでした」
「……そのあいだ、収入はないんだよね?」
「そうですね。ゼロっす。バイトやってないととてもとても」
「編集さん、変えてもらうとかは……?」
「できなくもないんでしょうが、実質無理でしたね。編集ってただでさえ作家いっぱいもってて人手不足なんです。売れっ子なら別ですが、売れない漫画家ひとり切ればすむことなんで、わざわざ担当変えてくれるとこはレアなんじゃないでしょうか」
思った以上にシビアな世界で、わたしはもやもやとした気持ちになった。普通の企業じゃなかなか考えられない状態だ。
そういう特殊な世界なんだろうが、華やかな印税生活のイメージの下に、彼みたいに苦しむ人が何十人何百人もいるのかもしれない。
「担当ともめてたとき、大学の友達のデビューを知りました。大学のころ一緒に漫画家目指してたんですけど、そいつ、漫画家は無理だって早くに見切りつけて、卒業後は会社員になって、僕なんかよりずっとまともに社会人やってます。――そいつが、エッセイ漫画の本出したんです」
わたしはちょっと息を飲んだ。ああ、なんかいやな予感がする。
「SNSに載せた4コマ漫画みたいなのがバズって、出版社から声がかかって書籍化。すぐに重版して、シリーズ化ってやつです。デビュー作で。ラクガキみたいなやつで、です」
彼の声が少し、震えた。
「……僕は六年で、何冊か単行本出しましたけど、重版なんて一度もしたことなくて、どれも打ち切りで」
シリーズは夢だった、と揺れる声が言った。
わたしは言葉を失った。
「そいつ、いい奴なんです。僕がデビューしたときとかも、すごく応援してくれて。でも、バズったそいつの漫画って、ほんとにラクガキみたいなやつで。あるあるネタだから受けたってのもあるんでしょうが。でも、やっぱ自分と比べちゃうんですよね。漫画が好きで、ガチで漫画家やりたくて、漫画のためにバイトしてクソ時間かけて気合い入れて描いて仕上げて、六年それやって全然芽が出ない。僕の六年を、あいつは数ヶ月で追い抜いていった」
――会社員の片手間にやりながら。
彼はいったん言葉を切って震える息を整えたあと、ふいに上を向いて、あーあ、とことさら明るい声で言った。
「すごいですよね。結婚して子供もいて、安定した仕事もあって。その合間に漫画描いて、それがヒットですよ。……趣味で描いてたら本出ちゃったよ、ってあいつが照れたように言ったとき、僕は……」
その先の言葉が途切れた。
――バイトをしながらでも本気で描き続け、いまだもがいている彼。あきらめて趣味で描いて成功した友人。
その関係はあまりに残酷だった。
彼は笑った。自分を皮肉るみたいな調子だった。
その皮肉の調子を否定したいととっさに思ったけど、よく知りもしないのにそうするのはひどく薄っぺらい気がして、言葉につまってしまった。
「僕はあいつみたいにエッセイ漫画描けないですし、SNSでバズれるような漫画じゃないです。やりたいのはスキップみたいな少年漫画で。自分はプロだしっていう意地があったんですけど、売れなきゃ意味ねえよなって。担当とは本当に合わないし、何度も何度も直して、時間ばかり経って……本当に何のためにやってるのかわからなくなったんです。同期デビューも後輩もどんどん成功してて僕だけ取り残されてて、ずっとこのままなのかなとか。こんなこと、これからもずっと続けるのかよ、って。かといって、いまさら就職かよ、って感じで」
「……まだ若そうだし、全然就職もいけると思うけど」
わたしはかろうじてそう言ったが、青年はそうですね、と笑っただけだった。
わたしのむなしい慰めに反論しなかっただけ、彼は優しいのだろう。
「春って出会いと別れの季節とかいうじゃないですか。で、もうやめようかなって思ってたんですよね。いまやめれば、傷はそれ以上深くならないですみますし。希望なんて全然見えなかった。あの日……前の日は晴れてていい天気だったんで、明日、花見でもしながら自分の気持ちにケリをつけようと思ってたんです」
でも、その日はあいにくの雨だった。
彼は力なく笑った。
「僕、何かにつけてタイミング悪いんです。編集と昔の仲間のデビューの件もそうだし。春の花見にかこつけて、ペン折り日和とかやろうと思ってたら、雨降るのかよっていう」
「――やめるな、っていう啓示かもよ」
わたしはつい、そんな返しをしてしまった。
彼はちょっと驚いたような顔をして、それから困ったような苦笑いを浮かべた。
あの雨の日、ずぶ濡れになることもいとわず、ひたすらベンチに座っていた彼の姿を思い出した。わたしは自分のうかつな返事を後悔した。
「結局ずるずる一年、決断できず。相変わらずいまだに企画は通らないし、ペン折り日和、今年も雨の日だったし」
彼のおどけた言い方に、わたしはようやく少し笑うことができた。
「……すんません、長々自分語り。しかも愚痴だし」
「いいよいいよ、桜の花の代わりに聞いてあげる」
彼は目を丸くしたあと、笑った。
それからしばらく、二人でただ穏やかな春の陽射しを味わった。
うとうとと心地良いまどろみを誘われるような陽気だが、たぶん彼はいまこの瞬間にも、漫画家を諦めようか否か迷っているのだろう。
諦めるな――などと、わたしには言う資格はない。
でも。
「……春の天気って、変わりやすいよね。三寒四温なんて言葉もあるし」
気づけば、わたしはなにかに急かされるみたいにそんなことを言っていた。
桜も、わずかな間に咲いてすぐに散ってゆく。だからこそ、人はわざわざ花見などをするのではないか。目を離せばすぐになくなってしまうから。チャンスと同じ。
彼が、意外なものでも見るようにこちらに顔を向けている。
あえて目を合わさず、散りかけた桜の木を見ながらわたしは言った。
「諸行無常、って言葉もあるぐらいだし」
不変のものなど、この世界にはないという。
――来年こそは、彼は晴れた日のペン折り日和にここに座っているかもしれない。あるいはまた雨が降っているかもしれない。
あるいはそれまでに――彼が漫画家として成功していることだってあるかもしれない。
ペン折り日和じゃなくて、ただの花見日和になっているかもしれないのだ。
人生の、春をも感じられる日に。
そう思いたかった。無責任かもしれないけど、彼にも、そう思ってほしかった。
「……はは、そうっすね」
わたしのわがままが通じたのか、彼は笑った。少しだけ元気を取り戻したように思えるのは、わたしの願望かもしれない。
目の前に、ひらひらと白い花弁が舞っていく。
「来年は、いい花見日和になるといいなあ」
彼のしみじみとしたつぶやきに、わたしは強くうなずいた。
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