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短編小説1
膨れ上がったお腹に手を当てた。
小さな頭で思い出すのは食べ物のことばかり。
いつどこで飴を一粒、口に含んだだとか。そんな些細なことを記憶のページに刻んでは嫌悪感に苛まれていた。
そのたかが飴は一つは約十二キロカロリーほどある。十二キロカロリーは徒歩で十分ほど歩けば消費することが出来るカロリーだ。
科学者にでもなった心地で計算していった。当然、求めた答えは実行に移すまでである。
ほら、偉い人も言っていただろう。
『諦めたらそこで試合終了だ』って。
だから私はその言葉をなぞるように我が道を突き進んだ。偉人の言葉に直してしまえば聞こえはいいがやっていることはオラウータン以下でしかない。
もしかしたらオラウータンでさえも十分という時を有効に使っているかも知れないのに。
今、私は何をしているだろう。
神に人間という生を与えられた私はたかが見た目にとらわれて鏡を見ては絶望している。
『たかが』そう言ってはいるものの、私にとってのたかがはやけに重かった。一日でも『たかが』体重を維持できなければ目に水が溜まる。動けなくなる。死にたくなる。の繰り返しだった。
それで人生の何が楽しいのだろう。自分でも考えることはある。
でも、いざ食べ物を目の当たりにすると『食べちゃダメよ』と理性が囁いていた。
私は野生の獣のように物欲しそうに食べ物を凝視することしか出来ない。
口元に艶っぽいヨダレが伝っていた。
きっと私はオラウータン以下なのだ。
食べ物を口に運んだ時、漆黒の双眸には涙が溜まる。目をしたたかせて目からこぼれないように我慢した。
今までの私は何もかも我慢してきたのだ。
これくらいーーそう言い聞かせながら食べ物を口に含んだ。
こくり、と喉を鳴らして呑み込む。呑み込みきれない食べ物は砂の味がした。なのに手は止まらない。
理性の壁をいとも簡単に壊していった手が次の食べ物を求めて動き出す。我慢していた涙もプツリと糸が切れたように次々と頬を伝った。
また、私は食べてしまった。やはり私はダメな子ね。
その日に犯した罪は予想以上に重いものなのだ。
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