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百本の薔薇を君に
文字はだんだん薄れ、だんだん乱れていた。
お祖父ちゃんは亡くなる前に、これを病院で書き綴ったのだろう。
これは・・クレパスで描いたのだろうか・・。
まるで油絵のように立体的だ。
スケッチブックの最期のページには、滴るような鮮やかな赤い薔薇が、
溢れだすように描かれていた。
その薔薇一本一本が香り立つ光のように思えた。
そっとページをめくると裏に「百本の薔薇を君に」と書いてある。
もう一度その絵を目の前に掲げてみた。
溢れ来る薔薇の赤の向こうの背景に
光に満ちた明るい海が描かれ、そこに寄り添う小さな二つの影があった。
何故か涙が溢れた。
「お祖父ちゃん、やっとお祖母ちゃんとまた会えたんだね・・。」
気づくと部屋はもう夜の色に変わっていた。
私はその絵を、帰宅していた母の所に見せに行った。
母はお祖母ちゃんを亡くしてから久しぶりに、
優しい笑顔で涙を浮かべながら、いつまでもその絵を見つめていた。
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