百本の薔薇をあなたに

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百本の薔薇をあなたに

「わぁ!綺麗っ!」 私は思わず声を上げた。 お祖母ちゃんの一周忌を終えて、 私は母と一緒にお祖母ちゃんの遺品整理をしていた。 あらかたの物は、葬儀の後にお祖母ちゃんの娘たちである母や伯母や 孫や曾孫をはじめ、仲の良かったお友達に渡してしまった。 残っているのは普段に着ていた服や、食器や日用品 大きな箪笥(たんす)くらいなものだった。 その箪笥(たんす)の奥に紙袋があって、 中に大きめのがスケッチブックが数冊入っていた。 引っ張り出して、何気なくパラパラとめくると 今まさに咲きいでたような、瑞々(みずみず)しい薔薇の絵が描かれている。 私の声を聞いて、母がなになに?と寄ってきた。 「これはお祖母ちゃんの絵?」 母は目を細めて、その絵の右下に書かれているサインを 慈しむようにそっと撫でた。 「いいえ。これはあなたのお祖父さんが描いた絵よ。」 お祖父ちゃんは母が子供の時分に亡くなられて、 孫の私はお話でしか聞いたことがない。 あなたが絵が好きなのはお祖父ちゃん似ね、とよく言われていたが 実際にお祖父ちゃんの絵を見るのは初めてだった。 「すごく綺麗・・。ね、お母さんこのスケッチブック、 私が持っていてもいいかしら。」 母はにっこりした。 「まさかお父さんの絵があるなんて、思ってもみなかったわ。 佳子姉さんにも見せてあげたいから、それまで持っていてくれる?」 母と佳子伯母さんは今でも仲良し姉妹だ。 きっと沢山思い出があるんだろうなぁ。 「もっちろん!ありがとうお母さん!」 もう帰ってもいいわよ、と母に言われて 私は自転車の前籠にスケッチブックの袋を入れると、 家まで押していった。 スケッチブックが大きすぎて、そのまま走ると自転車が倒れそうだったのだ。
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