プロローグ 空港 2005年

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プロローグ 空港 2005年

 無愛想な税関職員に笑顔で申告するものは何もありませんと答えると、相手もほんのわずか微笑んだ気がした。  日本は一年ぶりだった。少し懐かしい気分で出口に出ると、自分ではない誰かを探す顔がいくつか見えた。たいていの顔はすぐに期待はずれだと知って視線を外したが、一つの顔だけがじっとこちらを向いていた。達哉は回れ右をしてもう一度戻ろうとしたが、逆行禁止で係員に行く手を阻まれた。そして元の出口に押し戻され、そこで両手を広げた先ほどの笑顔の男に迎えられた。 「何を嫌がってる? 久方の休暇だろ?」  にんまりと笑った顔を、達哉は見上げ、諦めたように息をついた。そしてその息を吐き終える前に踵を返し、男から逃れ、全力で走った。後ろから空港中の人間に叫ぶ『中尉』の声が聞こえる。  警察だ、そいつを止めてくれ!
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