■1 庭

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■1 庭

 空港内の騒ぎを完全に無視して、橘隆介はイタリアからの客人三人を出発ターミナルへ見送った。もう振り向かないとわかっている客人に会釈をして目を上げると、彼らの姿は見えなくなっていた。隆介は満足して微笑み、ゆっくりと空港を出た。  イタリアの顧客と自分自身を満足させるためのアルファロメオに乗って、快適に家に帰ると、ガレージの前の庭で愛娘が庭いじりを楽しんでいた。ガレージの一番右に愛車をバックで入れ、運転席に座ったまま隆介は娘の姿を眺めた。  年を追うごとに娘は妻に似てくる。当たり前ではあるのだが、隆介には不思議でしようがなかった。物の言い方も、さりげない仕草までもが似てくるのだ。妻は娘が小学校に上がる年に死んでしまったので、娘が細かいことを覚えているわけもないのに、何かと彼女は隆介に妻を思い出させた。背中から小言を言われたときなど、どきっとしてしまう。思わず振り返り、彼女の顔をまじまじと見つめてしまうほどだ。彼女はどうしたのと笑い、ほんの少し怪訝そうに首をかしげたものだ。  隆介がいつまでもガレージから出てこないのを不審に思ったのか、それとも車の中からの視線に気づいたのか、娘が顔を上げて振り向いた。 「パパ、何してるの?」  彼女が言い、隆介は助手席の鞄を取って車外へ出た。  薄暗いガレージから見ると、日の光の溢れる庭にいる彼女は、文字通り輝いて見えた。 「真琴、区切りがついたらおいで。『アズッロ』のティラミスを買ってきたから」  そう言って一足先に玄関へ向かう。娘が何もかも放り出して駆けてくるのはわかっている。隆介は心の中で笑いながら足音が近づくのを聞いた。
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