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外で夕飯を済ませ、達哉はガストン・ホテルに向かった。
東岡の指定したホテルは、達哉のような年代の、達哉のような服装の、達哉のような外見の者にはちょっとアンバランスなランクの高いホテルだった。公費で結構なものが調達できる東岡にとっては、これが妥当な線だったのかもしれないが、達哉はチェックイン時にドレスコードでひっかかるのではないかと思ったほどだった。
「お荷物は」とフロントの眼鏡が言ったので、達哉はポケットから煙草の箱を出した。フロントマンは困った客には慣れている様子で、お運びしましょうかと重ねて聞いた。
「お願いしようかな」
達哉が答えて、フロントマンは「承知いたしました」とボーイを呼んだ。戸惑ったのはボーイ一人で、フロントマンはお荷物をお持ちして、と彼に伝えて煙草の箱を丁寧に渡し、次の客に移った。
達哉は彼をいたく気に入り、今度の来日にもこのホテルを利用しようと思ったほどだった。
「ああいう人が、日本のホテル産業を支えてるんだよね」
達哉がボーイに話しかけると、彼は何と答えたら良いのかわからずに口ごもっていた。
そして君みたいなのが、十年もしたらああいうふうになるんだろうな。
達哉は将来投資として、彼に煙草の運び賃として一万円を渡した。「別にこれは冗談でもなく、からかってるんでもなくて、ただ、このホテルに感激したから渡すんだ」
戸惑い気味のボーイが出ていくと、達哉はベッドに寝ころんで天井の照明を眺めた。
疲れた。目を閉じるとすぐに眠りがやってきた。
そして毎度の夢を見る。
入れ替わり立ち替わり、誰かが達哉にすがりついて死んで行く。血の海が広がり、達哉の足下を濡らす。足下からも手や首が伸びてきて、恨み言を言ったり、救いを求める。達哉はそれを振りほどくが、どんどん血の海に引き込まれて行く。やめてくれ。血が口元まで迫り、息が詰まる。
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