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達哉は軽く舌打ちをし、受話器を置いた。そのまま後ろに電話待ちの長蛇の列ができていないことを確認し、もう一本電話をかけた。腕時計を見て時差を計算しているところに相手の秘書が出た。達哉は彼を相手に、ほんの少し世間話をし、それから本命の人物を呼び出した。一分でいいんだ。
「おまえの名前、何だったっけ?」
ハネイロは開口一番言った。
「タツヤ・カワセ」
「そんな名前だったかな。何の用だ?」
「また『エル・ニーニョ』が復活してるらしいんだけど」
「季節風みたいなもんだろう?」
「まあ、そうかもしれないんだけど、TCVのサイトが改ざんされたって?」
「一瞬な。今、原因を突き止めようとしてる。二度目があったのは知ってるか?」
「知らない」
「次のメッセージは『He is in Tokyo』だ。今回はTCVサイトじゃない。ボゴタ市警ホームページがジャックされて数時間流れた」
達哉は少し考えた。「ボゴタ市警のセキュリティはどうなってんの?」
「知るか」
「墓荒らしとかなかった?」
「ないな、だいたい『エル・ニーニョ』は爆死してるんだぞ。遺体は残ってない」
「そうか。照会とかは?」
「ん、そりゃあったな。なんで今ごろって思ったけど、『エル・ニーニョ』が手配されたときの資料を欲しいってのがあったな。廃棄処分にしたって言ったら、すぐ引いたけど」
「どこの国の人?」
「どこかな、とにかくうちの受付がすぐ対応してたんだから、スペイン語はできる奴だったんだろうよ」
「当てになんないな」
「まあね。もういいか?」
「カルテル対策は進んでるみたいだね」
「おまえが戻ってくりゃもっと心強いんだけどな」
「人件費、高いよ」
「愛国心はないのか?」
「俺、日本人だもん」
「じゃあ日本が好きなのか?」ハネイロが挑発するように言い、達哉はにやりと笑った。
「大好きだよ」
「そうか、切るぞ」ハネイロはそう言ってからすぐには切らず、一息ついた。「おまえが幸せだったらいいよ」
「ありがとう」
達哉は電話が切れる音を聞いてから受話器を置いた。
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