■2 会議室

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「そうでもない。学校建設や農地開拓にも力を注いでる。何しろ『エル・ニーニョ』は『悪魔と天使の両面を併せ持つ』んだからな。ちゃんと以前の『エル・ニーニョ』の評判を落とさないよう、こっちも細心の注意を払ってきた。でないと『エル・ニーニョ』の支持率が下がってしまうからな」 「殺戮の天使ってところも、忠実に再現したんだろうな」 「それはこのファイルにちゃんと書いてある。読み上げるから、覚えておけ」 「なんで覚える必要があるんだよ」  質問は堂々巡りだ。ソマーズは二人を見つめた。マコーリーは真実を答えるつもりはなく、達哉は質問を永遠に繰り返す。 「先ほども言ったように、影を返すには、影の記憶も一緒に返却しないといけないからだ」 「ただ単に俺に影の罪を着せようとしてるだけじゃないのかよ」  達哉がイライラしながら言うのを見て、にんまりとマコーリーは笑う。 「貢献だって君のものになる。コロンビアでの『エル・ニーニョ』の名声は高い。うらやましいほどだ」 「じゃぁあんたが『エル・ニーニョ』になってみればいいだろう」 「そうできるなら、なってみたいものだ」  マコーリーが澄まして言い、達哉が椅子を倒して立ち上がった。ソマーズは思わず達哉を制止した。ドアの前の兵士も腰の銃に手をかけていた。 「勝手なこと言いやがって。こんなもん、要らねぇ」達哉はファイルを机から払い落とした。 「そういうわけにはいかない」マコーリーはファイルを拾い上げると、達哉を見上げた。 「要らねぇよ」 「君に拒否権はない」 「離せ!」達哉はソマーズに言った。ソマーズは首を振る。「タツヤ、殴らせないでくれ」 「影もろとも殺せばいいだろう」 「殺させないでくれ」 「目的は何だ」達哉はソマーズを睨んだ。「あのクソジジイは答えない。おまえに聞く。影を俺に返す目的は何だ。普通なら影もファイルと一緒に鍵のかかる引き出しに入れて、俺を殺せばおしまいだろうが。なんでわざわざ俺に戻す必要があるんだ? 作戦自体の廃棄か? そのためのつじつま合わせか何かか?」  ソマーズは達哉が言い終わると同時に崩れ落ちるのを驚いて見つめた。 「心配するな。スタンガンだ」  マコーリーが近づいてきて、リノリウムの床に倒れている達哉の脈を調べた。 「面倒な奴だ。檻にぶち込んでおけ」  マコーリーはそう言って部屋を出て行く。兵士がソマーズを手伝おうとしたが、ソマーズはそれを断った。  ソマーズは達哉の肩を引き上げ、体を持ち上げた。ソマーズもこの返還業務の意味を知らなかった。達哉の言うように、作戦自体の廃棄なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ影の管理が面倒だからかもしれないし、もっと深い意味があるのかもしれない。  とにかくソマーズにわかるのは、達哉が影を歓迎しておらず、その記憶を知りたいとも思ってないことだけだ。それでも彼には強制的に返還されるだろうし、記憶も与えられるだろう。  それは気の毒だが、仕方がないことだ。彼は本来の『エル・ニーニョ』としての罪を免除されたのだし、影の件は、その代償だと言えなくもないのだから。
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