100日過ぎれば

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3日前、2年間付き合っていた彼氏に振られた。 振られた日は頭の中が真っ白になって、どうやって彼の家から帰ったのか覚えていない。 「ごめん。他に好きな子が出来た。 佳代ちゃんが嫌いになったわけじゃないけど……別れて欲しい」 3日間、何度も彼氏の言葉を頭の中で反芻していた。 きっとこのまま結婚するんだと思ってた。 彼はごく普通の人。 だけど、コンプレックスの塊だった私に優しくしてくれた。 彼と付き合っていくうちに、自分に自信を持つ事が出来たし、人生が楽しくなった。 それなのに……振られた。 私の思考は以前の私に戻ってしまった。 どうせ私なんて……きっと、最初から釣り合わなかったんだ。 私なんて……ブスだしデブだし……取り柄もないし 私なんて…… 昼間は仕事があるから普通にしていられた。 だけど、夜になると、日課だったラインや電話がなくなった悲しさでずっと泣いていた。 母に泣き顔を見られるのが嫌で自分の部屋に篭った。 母は仕事が忙しく、元々ほとんど会話をしてないから、きっと何も気づいていない。 友達に相談すると、呆れた顔をされた。 「新しい男を探したらいいじゃん。 振られたくらいでそんなに暗くならなくても」 友達は簡単に別れ、簡単に次の彼氏を見つけていく。 どうして私はこんなに苦しいの? 私ももっと軽く考えたいのに、ずっと彼の事が頭から離れない。 日に日に、自分の心が壊れていくのを感じていた。 生きているのがつらい。 どうやったら死ねるかを考えている日々の中で、いつも私の味方だったお婆ちゃんの事を思い出した。 お婆ちゃんに会いに行こう。 思い立つとすぐに近所に住んでいるお婆ちゃんの家に行った。 私の父は私が生まれてすぐに事故で亡くなった。 専業主婦だった母は父が亡くなってからずっと正社員で仕事を続けている。 私はお婆ちゃんに育てられたお婆ちゃん子だった。 小さい頃から母に怒られると、お婆ちゃんに慰めてもらっていた。 お婆ちゃんは何を話しても、いつも優しく聞いてくれた。 「佳代ちゃんは良い子だよ。 大事な大事な孫だよ」 そう言いながら、私の頭を撫でてくれる。 お婆ちゃんだけはいつも私の味方だった。 「佳代ちゃん、目が真っ赤よ。 何があったの?」 お婆ちゃんの顔を見ると、我慢していた涙が後から後から溢れてくる。 「彼氏と別れちゃった。 他に好きな子が出来たんだって」 「佳代ちゃん、つらかったね」 お婆ちゃんは何も聞かずに、私を抱きしめてくれた。 お婆ちゃんの目にも涙が溜まっている。 しばらくお婆ちゃんと一緒に泣いていた。 「佳代ちゃん、100日頑張ってみよう」 私がお婆ちゃんに死にたいと訴えると、お婆ちゃんは真剣な目をして私に言った。 「100日?」 思わず聞き返すと、お婆ちゃんは優しく言った。 「そう。100日。 100日過ぎれば今よりつらくなくなるから。 どんなにつらい事も時間が解決してくれるんだよ」 お婆ちゃんはそう言って遠い目をした。 「和也が亡くなった時、佳代ちゃんのお父さんね。 お婆ちゃん、和也の百箇日が終わったら、和也の所へ行こうと思っていたの。 佳代ちゃんのお母さんの美鈴さんはまだ若かったから、佳代ちゃんを連れて実家に戻ると思っていたし。 だけど、美鈴さんは私に『和也さんと暮らしたこの家から離れられません……家を出れば和也さんの思い出が失くなる気がするんです。 お義母さん、佳代を私と一緒に育てて下さい』って言ってくれて。 お婆ちゃんは生きる決心をしたんだよ。 だけど、最初の100日は私も美鈴さんも本当につらくて泣いてばかりだった。 だけど、100日を過ぎると、少しずつ泣く日が減ったよ。 また100日頑張ろうねって美鈴さんと一緒に頑張ったの。 お婆ちゃんの命は佳代ちゃんと美鈴さんが救ってくれた。 だから、佳代ちゃんがもし100日過ぎても、まだ死にたかったら、お婆ちゃんが一緒に死んであげる。 でもね、佳代ちゃんは必ずまた幸せになれる。だから、生きて。 佳代ちゃんは美鈴さんとお婆ちゃんの宝物なの」 お婆ちゃんが泣きながら話してくれた。 「幸せになれなかったら?」 「お婆ちゃん、もうそんなに長く生きられないと思うの。 お婆ちゃんが死んだら神さまに佳代ちゃんが幸せになれる様に頼んであげる。 佳代ちゃん、つらい時はいつでもお婆ちゃんの家においで。 一緒に泣こう。つらいのは当たり前なんだから」 「……うん」 どうして、私は振られたくらいで死ぬほど悲しいんだろう。 切り替えられる子が羨ましいって思う。 だけど、お婆ちゃんは泣いてもいいって言ってくれた。 一緒に泣いてくれるって。 お婆ちゃんの言葉を聞いたからって、悲しみがなくなった訳じゃない。 だけど、お婆ちゃんが私の悲しみに共感してくれた事は本当に嬉しかった。 その日から毎日指折り日を数えた。 3日……9日……49日……100日 夜、一人になるとあい変わらず寂しくて泣いていた。 だけど、苦しさは少し減った気がする。 元カレの顔は毎日頭の中に浮かぶけど、それでも前よりはつらくない。 お婆ちゃんの話を聞いてなかったら、もっと孤独だったかもしれない。 「佳代ちゃん、大丈夫?」 あれから毎日、お婆ちゃんが電話をかけてくれる。 「大丈夫だよ」 同じ言葉で毎日答えているけど、最初の頃の大丈夫は強がりだった。 だけど、100日目の今日の大丈夫は最初の頃ほど強がってない。 また今日から100日頑張ろう。 次の100日ご過ぎた時はもっと元気に大丈夫って言えるはず。
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