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最後の試合 3Q
試合は後半、第3Qの半分を過ぎたあたり。
結果は、目も当てられないほどボロボロだった。
相手は県大会常連の強豪校、一方うちは何の取り柄もない普通の中学。
うちが劣勢になるなんて火を見るより明らかだった。
チームで一番背が高い絢香も相手のセンターに比べれば劣って見える。
オフェンスでは力尽くでゴールから遠ざけられ、デフェンスでは強引に絢香を押しのけ点を決められる。
あんなに小さな絢香の背中を見るのは久しぶりだった。
「ちょうだい!」
偶に絢香がいいポジション取りをしても点には繋がらなかった。ゴール下にいる絢香の手に渡る前にボールは奪われ、また相手に点を決められる。
「ドンマイ!一本、オフェンス!」
私がガラガラ声でコート内を励ますと、思い出したように他の部員も小さく復唱する。
声が小さいからと言って彼女達を責めるつもりは毛頭ない。
最後の4Q目が残っているとは言え、十数分でひっくり返る様な点差ではないのだから。元気がある方がおかしな状況だ。
先輩の引退を覚悟し泣き出した後輩もいた。
私はそんな後輩の背中をさすり、再びコートに顔を向ける。
ボールが渡らず、また絢香がゴール下で孤立していた。
悔しそうに歯を食いしばり、絢香は自軍のゴール前に戻っていった。
私がいれば絢香を1人にはさせないのに。あの子にボールを届けられるのに。
足の痛みと涙で歪む顔をチームメイトに悟られない様、私は強く頬を鳴らした。
「ドンマーイ!切り替えてー!」
私の声は果たしてコートに届いているのだろうか。
なんで私は座っているんだ、走ってないんだ、絢香を1人にさせてるんだ。
あぁもう、最悪。なんで今日雨が降るの?
雨さえ降らなければ、去年の古傷は痛まなかったのに。予報じゃ晴れだったのに。
汗を拭う絢香と歪んだ顔の私を劈く雨の音。
私は右腿を拳で叩いた。
そういえば、あの日も今日みたいな雨だった。
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