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最後の試合 4Q
『タイムアウト、白』
試合時間残り3分で時計が止まり、選手がベンチに戻ってきた。
「ねぇ、真智」
息も切れ切れな様子でキャプテンの絢香が私を呼んだ。
「なに?ドリンク?タオル?」
「試合、出てよ」
思いがけない絢香の言葉に私は目を丸くする。
「いや……でも、今日の私はちゃんと動けないよ。雨で古傷が痛んでるの知ってるでしょ?アップでも満足に走れなかったのも見てたじゃん。出てっても邪魔になるだけだよ。私なんか」
チームメイトは私と絢香のやり取りを固唾を飲んで見守っている。
「真智、約束」
「えっ?」
「『私なんか』禁止でしょ。出たいの?出たくないの?私は真智と試合出たいよ」
絢香の眼差しと言葉に、胸の底が熱くなる。
一瞬頭をよぎった不安要素、左足首と止まない雨。
去年の怪我の痛みを忘れたことは一度もない。
でも私は私らしく、馬鹿なりに余計なことを考えず腹の底から素直に答えた。
「出たい!!」
『真智!』『真智先輩!』『出てください!』『頑張れ真智!』『先輩なら絶対出来ます!』
チームメイトの暖かい声援が私をコートに優しく送り出してくれた。
軽く屈伸をして顔を上げると丁度タイムアウトの終わりを知らせるブザーが鳴った。
『ピッ!白ボール』
味方からパスを受けとった私は、前を向いて万全とは言えない足で走り出した。
「真智!」
「絢香!」
絢香の元へ。
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