金=命

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令和元年8月1日。 午後3時28分。 三ヶ月が経った。三ヶ月も経てば色々な事が分かり、意外な事に情報収集を買って出たのは要からだった。 要は主にネット経由で情報を集めていたが、ただ調べるんじゃなくて自分でゲェム専用のブラウザサイトを作成し、そこで各地の情報収集を始めたのだ。ドヤ顔で情報を提供して貰った時は正直驚いた。 聖也は主に警察間での情報をくれた。本来なら外部に漏れてはならない情報を提供してくれて、要との情報を合わせて噂程度の情報が真実となった、というのは割と多くあった。 そして情報を提供して貰ってばかりの僕は、これといって聖也や要と違って凄い事はしていないが、主に集まった情報を纏めていた。我ながら地味な役割分担だが、一人ぐらい纏める人がいないと錯乱するだけだろう。後は、実際に目で確かめた事の報告ぐらいだ。 「あーくそあちぃ」 作戦会議という名目で、僕達は大学近くの喫茶店に入り浸っていた。公園とかで話を纏めても良かったのだが、さすがに8月ともなると頭が溶けてしまいそうだった。その為、涼しい場所ということで近くの喫茶店を選んだわけだが、そのダラけ具合と言ったら最悪だ。 「暑いのも分かりますけど、その様子じゃ新しい情報はないみたいですね」 「うっせ。それは要も同じだろうが」 聖也と要は二人揃って溜息を零し、それを掻き消すみたいにアイスティーのグラスの中で氷と氷がぶつかって涼し気な音を奏でた。 その音をもう一度聞きたくてストローでくるくる回してみたが、カラカラと音が鳴るだけで綺麗な音は鳴らない。 「正直、これ以上情報なんて無いんじゃないかな。集めれるだけ集めたよ。あれから変な現象も起きてないし、僕達は今までと変わらず過ごすしかないよ」 「だけどよ……」 「まあ、そう言いたくなる気持ちも分かりますけどね。このゲェムとかいうの、僕達学生は無関係とまでは言わなくても被害がないんですよね。お金に困っていない人以外はですけど」 「あ、それなんだけどさ」 普段から持ち歩くリュックサックからノートを取り出して、それをみんなに見えるように開いた。それを見た聖也と要は驚いたように目を見開き、要に限っては感心したような声すらも漏らした。 「このゲェムなんだけど、中心は金だよね。金でこのゲェムは動いてる。で、要が例えたこの緑の棒線はヒットポイントで間違ってなかったわけでしょ?」 「そうだな。買い物とかすると、ちょびっとヒットポイントが減ったのは確認したぜ。まさかこのヒットポイントが金を現してるとは思わなかったけどよ」 「うん。でさ、それで僕疑問に思ったことあって。このヒットポイントは僕達の財産を現したものでしょ?だから当然、金持ちである聖也は無駄にヒットポイントが多い。僕なんかは財産と言えるほどじゃないけど、100万の貯金があるから、大体はそこの数字を現した長さなんだと思う。 じゃあ政治家とかは?芸能人とかはどうなんだろうって思ったことない?」 「そんなの僕達よりも断然長いに決まって」 さすがの要も、この話には喉を詰まらせたようだ。聖也はまだ気づいていないようだが、要が続きの言葉を口にしないのにはちゃんと理由がある。 それはここ最近相次ぐ失踪事件についてだ。 ゲェムが始まって、一週間ぐらい経った頃だろうか。ニュースで話題に取り上げられたのが失踪事件だ。ただの失踪事件ならそこまで世間を騒がせなかっただろうが、それは明らかにただのとは言えないものだった。 初めは会社員や友達。時として家族が失踪したと取り上げられていた。だが段々とその数は増して行ったのだ。一日に失踪する人数があまりに多すぎて、報道にも規制が張られる程であった。 そこで各地から情報を集めていた要が出した答えが、ヒットポイントがなくなったということだった。それに続くように、秘密に情報を入手してきた聖也も似たようなことを話し、僕達の間ではヒットポイントがなくなると消える。つまり失踪するという答えを出したのだ。 それがここ最近では金に困らないような人達が失踪しているのだ。もちろんニュースなんかでは入手出来ない情報のため、大きな声で話せる話題なんかじゃない。 「それはおかしいですね。金に困らない筈の政治家が最近では失踪している。なぜ……?」 「まだ疑問がある。ホームレスとかいるだろ?借金を抱えた人達とかさ。その人達が今どうなってるか知ってる?」 聖也は沈黙を貫き、要は首を振る。そんな二人を見て、ようやく自分から情報提供出来ることに喜びを覚えた。 僕だってたまには情報提供をした時の優越感を感じたいに決まってる。 「立場逆転。今じゃホームレスや借金を抱えた人が上に昇ってるらしい。て言っても全員が全員じゃなくて、会社が倒産してホームレスにまで落ちた社長とか、誰かの為に借金を抱えた人とかだけみたいだけど」 「でも、それはおかしいですよ。その人達のヒットポイントはどうなってるんですか?お金がないのに、そんな……」 「仕組みはよく分かんないけど、そういう情報を集めて僕が思ったのは、世界の間引き。そう思った」 「間引き……?」 「悪い人間を減らし善良な人間を残す、みたいな?ゲェムの告知がされた時のことを思い出してみたんだ。あの時は怖くて理解していなかったけど、ピエロの人形は人間が増えすぎたから減らそうって言ってたよね。それってつまり、人間の間引きをするってことなんじゃないのかな。だから、世界……だと大きいな。……日本でも政治家とかじゃない僕達には余り影響がなかった。ただそれだけの話なんじゃないのかな」 「なるほど……それならなんとなく、分からないでもないですけど」 「こじつけみたいな感じになっちゃったけどね」 話に区切りをつけるように、カラン……と夏に似合った涼しい音を氷は最後に奏でた。
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