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ペネム
なんやかんや考えながら歩いていると、いつの間にか森を抜けていた。そのまま歩き続けると、小高い丘を越えたところで、何かを守るように造られた石壁と門らしきものが見えた。
ゲームなんかでよくある景色だ。町を覆う石壁。これだけでテンションが上がってくる。
「あれがペネムか」
魔物対策で町を石壁で覆っているのだろうか。魔物なんていると、そういう対策をしないといけないから面倒くさいな。見ている分には壮大で楽しいが、実際には町を広げる妨げにもなるし、街から出る際に門を絶対に通る必要が出てくる。
まあ、不法侵入とかもしにくいから通行料を取ったり、住民管理なんかもしやすいのかもしれないけど。
「ここはペネムだ。何の用でこの町へ来た?」
開いている小さな門を通ろうとすると門番に止められる。
まあそうだよね。さすがに門まであるのに素通りはさせてくれないよな。
「旅をしてたんですけど、そろそろ拠点を作ろうかと思いまして。ペネムなら魔の森も近いので冒険者として生活もできて良いかなと」
ペネムは冒険者の町とも言われるくらいだからな。中堅の冒険者が良く来る町だそうだ。
なぜ、中堅かと言うと、魔の森は魔物の数が多いから初心者には厳しいというのと、上級者は迷宮攻略に勤しんだりや貴族のお抱えになっている者が多いからだ。
中堅者だと、迷宮やダンジョンに潜る方が一攫千金はあるが危険度が高いため、魔の森で稼ぐ方が堅実と言える。
「荷物が少ないようだがよくここまで来れたな。身分証はあるか?」
そういや剣以外はストレージに仕舞っているから手ぶらに見えるのか。どうせ鞄なんて持ってないから変わらないんだけど少しは対策しとけば良かったかな?
ストレージなんて普通の人は持っていないだろうから、持っていることがばれたら面倒なことになりそうだし。
「荷物は途中で魔物に襲われた時に身代わりになってもらったよ。身分証もその時に犠牲になったから今は無い」
「だったら仮身分証を発行するから少し来てくれ」
よくある言い訳を疑われることもなく門の隣にある部屋に連れて行かれる。
渡された紙に書く欄は名前と年齢しかない。名前と年齢だけでいいとか書かせる意味あるのだろうか。
「字は書けるか?書けないなら代筆するが」
「大丈夫です」
さて、名前を何にするかだな。
門番さんの見た目的に、やっぱり名前は感じじゃないんだろうな。
とすると、ケイマ・カツラギか?そういや、説明書に姓は貴族か功労者の家系にしか無いと書いてあったな。
だったらケーマでいいか。カタカナでイメージするとケイマは違和感があるし。
「ケーマ21歳ね。もっと若いと思ってたが俺と同い年か」
門番さんも21歳らしい。
東洋人は若く見えるらしいからそのせいかな?門番さんはガタイもいいし、?に少し傷があってワイルド系のイケメンだ。
「最後にこれに手をかざしてくれ」
机の上に緑の玉が置かれる。
初のファンタジー要素きた!これは魔道具的なやつかな?手をかざせば変色するパターンのやつだろうな。
言われた通りに手をかざすと、玉が青色に変色する。
おお!分かっていても実際に体験するとテンション上がるな!
「これは書いた内容に嘘が無ければ青に。嘘があれば黄色、犯罪歴があれば赤に変色するんだ」
ほうほう。さすが異世界ですな。
こんな簡単に犯罪歴まで解るのか。どの段階で犯罪歴がつくのかは不明だが、そこはおいおいでいいだろう。
これがあるから適当な言い訳も流されるし、用紙も名前と年齢しか書くところがなかったのか。
「じゃあ、仮身分証を発行する。三日以内に身分証を見せにくるか、滞在延長の手続きをしにきてくれ。初回は通行料のみの500コルで発行するが、手持ちはあるか?」
500コルね。銀貨5枚か。
金貨しか無かったけどストレージには2万コル表示なんだよね。これ念じれば銀貨5枚だけ出てこないかな?
ポケットに手を突っ込んで探すふりをしながら出てこいと念じる。
手元に数枚の金属の感触。
すげえ!自動両替機能まで付いてるなんて。これ両替商として働くこともできるんじゃないか?いざこざに巻き込まれそうだから、そんな微妙な商売はしたくはないけど。
驚きを顔に出さないように気を付けながら銀貨を渡す。
「確かに受け取った。三日以内だが、今日を含めてだから明後日の日が沈むまでに持ってくるように」
「はいはい。たぶん明日に冒険者登録するから明日の昼くらいには来るよ」
仮身分証をポケットに入れるフリをしてストレージにしまう。まじでストレージ便利。これで物を無くす心配もないな。
門番さんにあまり煩くないおすすめの宿屋の場所を聞いて、ペネムへと足を踏み入れる。
「技術的にはまだまだだけども、魔法要素のせいで発達してる部分もあって面白いな」
町を歩いているだけでも面白い。
電灯のような物には、先っぽに石がはめ込まれているだけだし、水は井戸から汲んでいる。
家は木製だったり土製だったり様々だし、町中を馬車が闊歩している。
まさしくファンタジーなこの世界に神への感謝の気持ちが溢れてくる。あのまま家に引きこもりネットに漬け込んだ人生を歩むよりかは、断然楽しめそうな予感がする。
きょろきょろと周囲を見渡しながら歩く様は、田舎から出てきたそれにしか見えなかったのだろう。道行く人に少し微笑ましい表情で見られることに恥ずかしさを覚え、さっさと宿屋へと向かうことにした。
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