宿屋

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宿屋

 見たことの無い景色にわくわくしながら歩くこと10分程。町の東側までやってきたところで門番さんに教えてもらった安いけど良い宿屋を発見した。ギルドや冒険者のための店が多く存在する西側と違い、人もそこまで多くなく静かな立地は客の入りはともかく、俺としては良い条件だ。宿屋ではゆっくりしたいからな。騒がしいところに泊まるのは嫌だ。 「見た目は結構ぼろいな。宿屋ファロムね……勧めてもらったからここにするか」  木造の建物は隙間風でも入っていきそうな見た目だが、外観だけで判断するのもせっかく教えてもらったのに悪いから扉を開け中に入る。  あれ?意外と綺麗。外のぼろっちさが何だったのかってくらい普通だ。わざとそういう風にしているのか、建て直すのが面倒だからなのか知らないが、穴場的な宿屋のようだ。ナイス門番さん。 「いらっしゃい。見ない顔だね。食事かい?泊まりかい?」 「今日ペネムに着いたところなんですよ。泊まりでお願いします」  宿屋の番台に似合わない厳ついおっさんが元気良く声をかけてくる。  あんたは狩りかなんかしてる方が似合ってるよ。そんなところにいるような見た目じゃない。だが、対応は丁寧だし、話すと良い人そうだから許してやろう。 「シングルなら一泊300コルだ。食事ならそこで泊まってることを言えば半額で食べれるから良かったら使ってくれ」  一泊300コルね。だいたい1コル10円くらいなのかな?それなら日本と同じ感覚でなら安い良い宿屋になるな。食事も奥の食堂でなら半額になるようだから、本当に当たりのようだ。 「じゃあ六泊分先払いで」 「六泊な。確かに1800コル受け取ったぜ。部屋は二階の一番奥だ。食事は朝6時から夜10時までだからな」  鍵を受け取って部屋に向かう。  2階の一番奥ね。廊下を歩いている感じでは手前が埋まってるとかじゃなさそうだ。人が居そうな感じがしない。奥に行けば行くほど入口の方から聞こえる外の音も聞こえなくなってきているから、奥の部屋の方が有難い。良い宿屋だな。あの門番さんには感謝しないと。冒険者の町の宿屋なんて無駄に騒がしい宿屋のイメージがあったから、こういう静かな宿屋に来れたのは運が良かった。  鍵に書かれた番号の部屋を見つけ中に入る。  外の様子からして、布団が有るかどうかも少し心配していたが綺麗な布団がある。ベッドも布団も少し硬くて重そうだが十分寝れそうだ。これなら異世界生活も意外と快適かもしれないな。  異世界初日はこれと言ったことは無かったが、状況を飲み込むのに疲れたのかご飯を食べて部屋に戻れば、すぐに寝てしまったようだ。 「それでもう朝と……」  日の光が眩しくて目を覚ます。  慣れない固いベッドだから少し体が痛いが体調は悪くない。  部屋に時計が存在しないせいで何時か分からないが、外から人の声が聞こえるくらいの時間にはなっているようだ。  説明書をぱらぱらと開く。  時間について調べていると、時計といったものは正確な時刻を刻む時計がそれぞれの国の王城に一つずつあるだけのようだ。  だから、時間は鐘の音で判断するらしく、6時から22時まで4時間毎になる魔道具の鐘で時間を知るようだ。  時計は無いが、ストップウォッチ的な魔道具がダンジョンで手に入るらしく、正確な時間を知りたい人は持っているらしい。鐘の音とともにストップウォッチをスタートさせて時間を合わせているとのことだ。振子を使った時間の測定方法なんかは発見されていないようだな。まあ、あれも誤差が少なからず出るものだし、この世界でまだ正確な時計が発明されていないのも無理はない。  となると、目が覚めた今の時間がどれくらいかっていうのは鐘の音で起きたりしないと分からないのか。  本当に取ってて良かったな上位鑑定。鑑定待機モードにして、時間を確認する。  08:45。昨日早く寝たにしてはかなり長い間寝てたな。やっぱり、異世界に来て混乱したり、色々新しい知識がありすぎて疲れていたのかな。  でも、取ったスキルもハズレでは無いし、この異世界生活はなかなか楽しめそうな気がする。  あとは、冒険者としてやっていけるかどうかが問題か。  やらないといけないことはさっさと済ましておこうと、朝食を食べてさっそく冒険者ギルドへと向かう。  ちなみに、この世界の料理は不味くはない。いや、美味しいと言えば美味しいのだが、味付けがシンプルだ。  基本、塩味。  異世界物でよくあるよね。って思うくらいの塩味、もしくは食材の味そのままだ。  だから、不味くはないし、シンプルなステーキなんかは肉自体の味が良いのか美味しいが、さすがにこれが続くときついと感じる。  あと基本的に固い。品種改良が進んでいないからか筋が多かったりする。特に野菜は青臭いし、繊維っぽいから慣れるまでは大変そうだ。  それでも、自分で料理なんて出来ないしする気もあんまりないから諦めてはいるが、もっと金持ちになれば色々な調味料と出会えるかもしれないと薄っすら期待している。
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