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「体……ですか」
「ん?」
七海が新しいボトルを取りに向かったタイミングで、東堂に問いかける。
「俺は、社長を殺そうとしました。もちろん社長は俺がどうこうできる相手じゃない。けど、こうやって追い出さないのは、俺に少しでも利用価値があるから」
目線は東堂の手元のまま、考えて考え抜いた言葉を途切れ途切れに吐き出す。
「……ボディーガードお願いしたよ」
「もちろん!もちろんその仕事はしっかりやります……けど、こんな食事もさせてもらって、それだけのはずがない」
暖かな部屋に暖かな食事。誰かと向かい合って、時々話もして。
そんなこと、今までの生活では考えられなかった。
「確かに……私は今酔っているからね、うっかりなんてことがあるかもしれない」
断言はせずにどこか揶揄うような口調で東堂が言う。
そんな調子だから、この間東堂の部屋に侵入した日のアレも酔っていたのかと疑ってしまうほどだ。
「俺の体、汚いけど……でも、大丈夫です。仕事なら、言ってください」
きっと、これが正解だ。
『余計なことはするな』
余計なこと、つまり殺しはしないで、黙って東堂のいいなりになれ。
きっと庵司はこう言いたかったのだろう。
それならわざわざ日暮に話が来たのも頷ける。
東堂は庵司の弱みでも握っているのだろう。少しでもつなぎになればと息子である自分を送った。大企業の社長である東堂は、女を見繕う時間もないだろうから。
それなら、それに従うまでだ。
意を決して顔を上げると、暗い緑の瞳と視線が交わった。
「…………シャワーを浴びたら、ベットにおいで」
それまでとは違った底冷えのするような声に、ただ視線を外さずに頷くことしか出来なかった。
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