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「……さん、鏡さん!」
寝起き一番には聞きたくない、そんな大声と共に布団の上から揺さぶられる肩の振動で日暮は目覚めた。
ぼんやりとした目が映すのは優しげな目元を最大限に釣り上げた七海だった。
「……七海さん?おはようございます」
「おはようございますって、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょう!どうしてここにいるんですか!?」
日暮が寝ているのは東堂のベット。頭だけが掛け布団から覗く形の日暮はその言葉に慌てて起き上がる。
しまった、どうやら寝過ごしてしまったようだ。
これほど七海が怒るとは、東堂は今日ボディーガードが必須な重役とでも会うのだろうか?それなら東堂も起こせばいいものを。
七海が驚愕の声を上げたことで、そこまで考えた日暮の思考は現実に引き戻される。
「……え?え?あなた、何で服を着ていないんですか!?」
「あ、すみません、お見苦しい姿を」
自分の傷だらけの体を見下ろしてから、丁寧に枕元に畳んであったTシャツを着る。まさかとは思うが東堂がやったのだろうか、体は綺麗に拭かれているようだった。下は履いていたのでそのままベットから降りた。
「どうしてだ?東堂には近づくなと言ったのにまた暗殺しようとして……いや、違うのか?じゃあこれは一体」
「あの、七海さん?」
「……鏡さん!私の勘違いでなければこの状況は、その……」
どこに向かえばいいのか指示を仰ごうとしていた日暮は、ぶつぶつと一人で呟きながら顔を赤くしたり青くしたりする七海を呆気にとられて見ていた。
流石におかしく思った日暮だったが、恐る恐るした呼びかけに対してつかみかかる勢いで反応した七海の言葉に、今度は日暮が顔色を変える事になる。
七海に言われて初めて昨夜の自身の痴態を思い出したのだ。あまりにも恥ずかしい記憶を否定したいのか、幸いにも詳細には思い出すことはできなかったが、真顔の表情はそのままに火を吹きそうなほど頰が赤くなっている自信はあった。
「……少し待っていてください」
動けなくなる日暮を見てカッと目を見開いた七海は、おもむろに部屋を出て行った。
そして数分後、戻ってきた七海が発したのは今までの穏やかな人柄からは想像もつかないような凄まじい怒声だった。
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