261人が本棚に入れています
本棚に追加
「……一体どうなってるんだろうな」
いつものように顔の前を通り過ぎる煙をパタパタと振り払って、富澤はため息をつく。
頭を使うことは向いていないのだ。
自分の拳で、無機質な武器で解決できたらどれほど楽なのか。
「なぁ、晶。俺はどうしたらいい?」
チカチカと蛍光灯が点滅する廊下に、乾いた声が響く。
せめて無遠慮に滝本を問い詰められれば……そう思い、戸惑う。
先ほど滝本が一瞬悲しそうな目をしたように見えてしまったからだ。
何かを羨むような、恐れるような目。
何が滝本にそんな目をさせているのか。
決して滝本を気遣うわけではないが、どうにも気になって仕方がない。
……この間の発言が頭に残っているからかもしれない。
あの時は色々な感情でそれどころではなかったが、確かに滝本はあの部屋は昔自分のものだったと、そういったのだ。
日暮が生活していたあの部屋で生活していたと。
「社長には、聞けないよな」
滝本の警告もあるが、晶のことや日暮の傷のことを知った今社長に近づく気にはなれない。
誰にも相談できない。一人では何もできない。
富澤は無力感に打ちひしがれていた。しかし、『かがみ』にいることによって何か得られる情報があるかもしれない、そう考えて今後の依頼を確認するために薄い手帳を開く。
しばらくは任務に出る気にはなれないな。
社長から命令されればそんなことも言っていられないのだが、さすがの富澤も立て続けに起こる出来事に参ってしまっていた。
そしてそういう時ほど、嫌なことというのは向こうからやってくるものだ。
尻のポケットで、社長からの次の任務を知らせようと携帯が震え出した。
最初のコメントを投稿しよう!