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あるところに一人の少年がいた。
生まれて間もない頃に両親を亡くしたその少年は孤児であった。
引き取り手がいないためすぐさま施設に入れられた少年は、彼より年上の子供が多いその小さな施設でそれなりに充実した日々を過ごした。
賑わう市内から離れた場所に立つ施設は、自然に囲まれた子どもには最適な遊び場だった。学校へ通う男の子たちから学んだ言葉は少し乱暴で、母親代わりの施設長はたびたび嘆いていたが、木登りや昆虫探しなど体を動かすことが大好きになった。
しかし少年が6歳になった頃、平穏だった生活は突然終わりを迎えた。
時刻は夜中の二時ごろだったか、微かな物音に反応した少年が二階の寝室から降りると、そこには目を見張る光景が広がっていた。
施設長が血を流して倒れていたのだ。
慌てて駆け寄ろうとした少年は、背後から何者かに体を捕らえられ口を塞がれる。
「っ!」
自らの四肢を抑えつけるものの正体を見た時、少年はさらに瞠目することとなった。
「……こんばんは。昼間ぶり、かな?」
おじさん……?
そう、おじさんだ。そこにはおじさんがいた。
市内でリサイクル店を経営する、顔馴染みのおじさん。
いつも値のつかないおもちゃや売れ残った中古の品々を無償で提供してくれた、優しいおじさん。
今日の昼間だって、そうだ。
「わあぁああああ!」
混乱して頭の働かない中、さらに背後から大声が聞こえた。
甲高い、子供の声だ。
「……っ!」
その声の主がわかったのは、陰に潜んでいたもう一人の男が殴り飛ばしたからだ。
ドンっと重い音が響く。
壁にぶつかった体を丸めて呻き声を上げるその背中には見覚えがあった。
それもそのはずだ。先ほどまで隣で小さな寝息を立てていたのだから。
いつも隣で眠る4つ年上の兄のような存在。
「なんだ?死んじまったか?ったく、ガキは弱っちいから嫌いだよ」
「はぁ……まだ生きてはいるようだがそいつはもうダメだ。それ以上はやめてくれよ。俺もガキは嫌いだが、なんてったってカネになる」
二人の会話が霧がかってうっすらと耳に入る。
少年は声を出すことすらできず、動かない小さな背中を見つめていた。
不意に、それで殴りかかろうとしたのか、転がってきたバットがコツンと裸足の足にあたる。
段々と頭が状況を理解し始めると、それを拒むかのように少年は意識を手放した。
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