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「引き継ぎも無事に終わったことだし、新社長自ら視察でもするかと思ったら……これは一体どういうことかな」
穏やかで、それでいて地を這うような深い声が倉庫に響く。
何人だろう。コンクリートの硬い床に、複数人の足音が聞こえた。
床に触れる頬を伝った振動で、ゆっくりと意識が浮上する。
「ここって空き倉庫って話だったよね?」
眩しい。照りつける朝日の海面に反射したであろう光が、暗がりに慣れた瞳を焦がす。
カピカピに乾いた血が張り付く喉の痛みで、自分が生きていることを実感した。
いつの間にか日を跨いでいたようだ。
「困るなぁ、私の知らないところでこんなことされたら」
倉庫内で寝こけていた男達が何やら叫んでいるが、そんなもの気にならないほどに意識が1人の男に向かう。
逆光になっていて見えないが、色素の薄い髪が光っているのがわかった。
床に寝そべっていてもわかるくらい背の高い男だ。
「ん?子供?」
長身の男の取り巻きが暴れる2人を拘束する中、それを眺めていた男がそう呟いて倉庫内を横切ってこちらに近づいてくる。
「っ……」
敵か味方かなどどうでもよかった。最後の力を振り絞って眉間の血管がはち切れそうなほどの勢いで睨みつける。
生を実感した今、周りの全てが憎く見えた。
「……へぇ」
目の前までやってきてしゃがんだ男は、しばらく睨み付けられた後優雅に携帯電話を取り出した。
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