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「日暮くん」
その時は突然やってきた。
他社との会食後ビルに到着してまもなく、最上階へと向かうエレベーターの中で。
「日暮くんを私のものにしたいんだ」
「……はい?」
数秒の思考停止後、日暮ははっきりと聞き返す。
ボタン付近に立ち東堂に背を向けていた姿勢から、首を捻って横目で東堂を見ながら。
垂れる前髪の奥で、真剣な表情の東堂と視線がぶつかる。
「これはね、自分でもわかってる。私の悪い癖だ」
話を理解する前に、東堂は一人で続ける。
「別に日暮くんをものだと思ってるわけじゃない」
ポォンと音がなり、エレベーターが最上階に到着したことを告げた。
「けど、どうしても、証拠が欲しいんだ」
扉が開いても、東堂は動こうとしなかった。
「日暮くんが私から離れていかないって」
再びポォンと音が鳴り、扉が閉まった。
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