Ep.9

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「日暮くんが私のものになってくれたら、そしたら、少し私の話を聞いて欲しい」  東堂はそう言い、動けないでいる日暮に近寄り、エレベーターのボタンを押した。  覆いかぶさるような形で必然的に近くなる距離に、日暮の身体がピクリと揺れた。  東堂と別々のベッドで寝た日から数週間、その間もずっと、日暮はゲストルームで寝ていた。  東堂は驚くほどいつも通りで、七海にすら別々に寝ていることを悟らせなかった。 「今日はおいしいワインでも開けようかな」  東堂は人より体温が高いのか、体から発する熱を素肌に感じる。  東堂のものになる?  どう努力しても理解ができない言葉に何の説明もなく、東堂はただふわりと笑う。   「ほら日暮くん、晩酌の相手してくれるでしょう?」  ぱっと体を離して歩き出す肩幅の広い背中を、若干の肌寒さを感じながら追いかけることしかできなかった。
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