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雲の通ひ路
天津風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ
「僧正遍照ね」
春の柔らかな陽の射す堤防の芝生に寝そべった少女が言った。
「ん?誰それ」隣で寝転んでいる少年が言う。
「あんた知らずに言ったの?」
「僕、何か言ったっけ」
上体を起こして隣を見やるその顔はキョトンとしている。
「え?今…」少女は眩しそうに顔をしかめている。
ぬるい風が吹く今日は、雲ひとつない淡い青色の空が全天を覆っていた。こんな昼寝日和の日にしては河原の人影はまばらだった。時計が差すのは正午。まだ、同級生たちは授業を受けている頃だ。
「すいません。言ったの俺です」
申し訳なさそうにしながら少女の顔を覗き込む男は、端正な顔立ちをしたブレザーを着た高校生のように見えた。二人とは別の高校だということは制服を見ればすぐにわかった。
「あ、いえ」頬を上気させて少女が言った。
「今日みたいな日が、本当はいいんでしょうけどね」ブレザーの男は力なく笑った。
「何か用事でも?」
少年が焦りをにじませて尋ねると、ブレザーの男は少し迷ってから答える。
「死に時って、いつなんだろうって考えちゃって」
少女と少年はハッと顔を見合わせる。
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