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「ああ、すいません。こんないい日にこんなこと」
「いや、確かにどうだろうなって考えちゃって」
少女が取り繕うように言うと、少年も何か言おうと視線を宙に舞わせる。
「僕だったら、こんな晴れの日がいいなって思います」
「ですよね」ため息交じりで男は言う。
「うーん、私は雨の日がいいかも」
「え?どうして?」二人が声を合わせる。
少女は人差し指で虚空を切るように混ぜてうーんと唸った後、桜舞う風に合わせて口を開いた。
「しとしと降る雨でも、ザザアって降る雨でもいいんだけどね。なんだか私の死で世界が丸ごと悲しみに暮れているみたいで、ちょっと心強い気がする」
その言葉を最後に三人は風の音に耳を澄ませるように黙り込んだ。どこからか聞こえる丈の高い草を揺らす音が耳をくすぐるようで心地よい。川面を撫でる光の反射が息をのむほど美しく、気を抜けばすぐに眠ってしまいそうな陽気が包む。
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