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「ごめん、初対面の君たちにいきなりこんな話。せっかくのいい陽気だったのにね」
「いえ!私たちこそ….辛いこと聴き出しちゃって….」少女は上目遣いで男の様子を伺う。
少年は少女の様子を尻目に、男の方を見る。
「あの…妹さん。きっと良くなりますよ!ならなきゃおかしい!だって、あまりにも理不尽だ」
「そうだね。あまりに理不尽だ。だけど…」男は言葉に詰まる。何度も喉を鳴らし言葉を用意するが、声にならない。
「あの、これからも、辛かったら話聞くので」少女は切実な目で男を見つめる。
「ありがとう。思えばあの歌も、誰かに話を聞いて欲しくて言ったのかも。ずっと苦しかったんだ、夜も眠れなくて、授業も頭に入らない」
男は精一杯の笑顔を見せようとした。しかしその顔は、二人にとって酷く歪んだものに見えた。
男と軽い別れの言葉と連絡先を交換しあった後、河原に残った二人は空を見上げた。まるで自分たちの心を乗せるように、僧正遍照の歌を拝借して空に運んだ。男は家に帰る途中の道でグレーのパーカーを着た男とすれ違った後、ゆるりとした風に吹かれて空を見た。傾き始めた太陽の方角に、男は顔を歪める。
「天津風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ」
見上げた空に太陽の姿は無く、少し暗い色の薄雲が広がっていた。
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