不思議な和傘

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不思議な和傘

夏休みに田舎のばあちゃん家を訪れたときのことだ。玄関の傘立てに見知らぬ和傘があった。 その日はお客さんも来ていたので特に気にしなかった。 しかし、いつ見てもその傘はある。だんだん気になってきて、ある日とうとうばあちゃんに聞いてみた。 「ばあちゃん。この和傘って、誰の?」 「んー? なーに?」 ばあちゃんは耳に手を当てて、訊き返してくる。 「だーかーらー、この和傘、だーれーのー?」 「あー! それね。それは……」 ……亡くなったじいちゃんのよ。 祖父は飲酒やら喫煙やらが祟って、ぼくが幼いころに亡くなっている。ばあちゃん曰く、祖父は昔の人らしく、着流しがよく似合う男だったらしい。ぼく自身も『祖父』と聞くと、着流しに和傘を差している後ろ姿が思い浮かぶ。 その和傘は、そんな祖父が愛用していたものだという。 「そっか……。じいちゃんのだったのか。だから、いつ見てもあったんだ……」 ……今は使われていない紺色の和傘。 雨の日に差して歩くと、ビニール傘では決して鳴らない、風情のある音がしたという。
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