1-12

1/1
前へ
/56ページ
次へ

1-12

「最近ぼけっとしてるだろ? どうした?」  彼は昔から、そういう事にはよく気が付いた。周りに無関心なようで、意外と人のことをよく見ているのだ。  俊太は、いつもと変わらないような雰囲気で私の返事を待っている。 「……」  俊太は私が進路のことでずっと悩んでいる事を知らない。彼にも相談してみるべきだろうか。  返答に困っていると、俊太の方が先に口を開いた。 「ま、無理に答える必要はねぇけど」 「あ、……ほら、佳くんとさ」 「……」 「一緒に劇の練習してたじゃん? それがすごく楽しかったからさ、またやりたいなぁなんて思ってただけだよ。……私、そんなにぼけっとしてたかな?」  最後は少し茶化しながら口にしたけれど、不自然ではなかっただろうか。  俊太は椅子から立ち上がると、目の前の私をじっと見つめてきた。 「どうしたの……?」  俊太は何も言わない。  彼の切れ長で綺麗な瞳が、心配しているような色で私の姿を映している。  こんな眼差しを向ける俊太を、私は今までに見たことがない。  すると俊太は、自分の右手をゆっくりと優しく私の頭の上にのせ、ほんの少し下へ(すべ)らせるとすぐに離した。  そしてそのまま顔を伏せるようにして、入り口の方へと歩きだす。  そんな俊太の仕種(しぐさ)にどきりとしてしまった。 「暗くなる前に帰ろうぜ。俺、今日はチャリじゃないんだよ」 「う、うん……」  なに、今の――?  私は椅子を元の場所へ戻すと、荷物を持って外へ出た。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加