2-11

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「知ってるもなにも、高校演劇界では有名な学校だよ。毎年、全国大会まで出場してるんだ。全学年朝礼とかで表彰されてなかった?」  そういえば……。 「されてた……」  高校演劇だからといって馬鹿には出来ない。  学校によってレベルは様々だが、レベルが高いところは本当に素晴らしい公演をする。  そういう学校は舞台装置も凝っていて、秋から始まる大会では、家が一軒建てられるのではないかと思うほどの物を作ってくるというのだ。  私は、夏の発表会と文化祭でしか母校の劇を観たことがなかったため、それ程までにレベルの高い演劇部だとは思っていなかった。 「そろそろ予鈴が鳴る頃だね。席を探そうか」  佳くんの言葉に頷くと、私たちは客席へと足を向けた。  中央の端の方に席を見つけて座る。 「楽しみだね」  そう言って隣で微笑む佳くんからは、本当に心からこの日を待ち望んでいたのだという気持ちが伝わってきた。 「佳くんって、本当に演劇が好きなんだね。初めて会った日にも、そんな顔してたよ」 「そうだね。演劇は大好きだよ。自分以外の誰かになれるって凄いと思わない? 演じている間は、僕が僕でなくなる。一緒に演じている相手も、僕を僕以外の人間だと信じて接してくる。もちろん僕も、相手を全く別の人間だと思って接する。楽しいよ、本当に」  少し興奮気味に話す佳くんを見て、いいな、と思った。  私もこんなふうに、自分が夢中になっている事を誰かに話したい。  聞いてほしい。  ブーっと予鈴が鳴り響く。周りの空気が少し変わった。 「あと五分だね」  うん、と生返事を返してしまった。 「螢ちゃん?」 「佳くんはさ、やっぱり将来は、演劇の方に進むんだよね?」  知りたいと思った。  どうやって自分の進みたい道へ足を踏み入れる事が出来たのか。  先の見えない、不安定な道の入り口に。
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