2-12

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「そうだね。どうなるかは分からないけど、頑張ってみるつもりでいるよ」 「親はすぐに許してくれた?」 「いや、(たたか)ったよ。大変だった。馬鹿なこと言ってるんじゃないとか、現実を見ろとか、散々言われた。僕はちゃんと現実を見て、ちゃんと考えていたのにね」 「それでも、諦めなかったんだね」 「まだ何もしていないのに諦めることなんて出来なかった。だって、夢を叶えられるか叶えられないかなんて、やってみなければ分からない事でしょう? だから、それから沢山(たくさん)バイトをして、勉強も頑張って、毎日へとへとになりながらも説得し続けたんだ。それで何とか今の専門学校に行かせてもらえてる感じかな。親は今でもあまり良く思っていないようだけど」  実はこっちでも、短期のバイトを始めようと思っているんだ、と彼は笑った。 「そっか……」  本当に夢を叶えたいと思うのならば、苦労も(いと)わずに、彼のように藻掻(もが)けばいいのだ。  もう子供じゃない。  一人でどこへだって行ける。  働いてお金を貯めて、家を出る事だって出来るのだ。それなのに――。  自分は根性なしだ。 「螢ちゃん……?」  急に黙り込んでしまった私を覗き込むようにして、佳くんが心配そうに声を掛けてきた。 「あ、ごめん。何でもない」 「そう……?」  それから間もなくして、本鈴が鳴った。  本鈴が鳴り止むと、緩やかに照明が落とされ、静かに緞帳(どんちょう)が上がっていった。  一校に与えられる時間は約一時間。  劇と劇の間の短い時間には、幕間(まくあい)討論(とうろん)と呼ばれるものが入る。  これは、役者や演出などが自己紹介をしたり、劇についての観客からの質問に答えたりする時間だ。  この時間は、次の学校の準備が整うまで続けられる。 「ありがとうございました」  司会の人が幕間討論を締める。  次はいよいよ私の母校である清美高校だ。なんだか観客が増えているように感じた。
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