2-13

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 穏やかなBGMと共に緞帳が上がっていく。  役者の動きに無駄がない。間の取り方も絶妙で、台詞もテンポ良くどんどん進んでいく。  その空気は観客席まで広がり、そして、観客の視線を全て釘付けにさせただろう。  もう、私たちは動けない。  自分はちゃんと呼吸をしていただろうか。  時には笑い、怒り、泣き、あっという間の一時間だった。  緞帳が下りてくる。  盛大な拍手の音で現実に引き戻された。  凄い。凄い。凄い――。 「今年の清美高はレベルが高いね」  佳くんが拍手をしながら口を開いた。  確かに、ここまでの(もの)は見た事がなかったかもしれない。 「夏の発表会でこれだと秋が怖いね。僕、秋の地区大会も見たい気分」  私はそんな佳くんの言葉を、ぼんやりと遠くで聞いていた。 「はい、持ってって」  私は自分の財布を彼に差し出した。 「いいよ、今日は僕が来たくて誘ったんだから、お昼は奢るよ。車も出して貰っちゃったしね」  昼休みの時間になった。  近所のコンビニでお昼を買おうという話になったのだが、とても混雑しているだろうという事で、佳くんが私の分も引き受けてくれたのだ。 「悪いよ」 「悪くないよ。螢ちゃんは場所取りをお願いね」  そう言うと、佳くんは自主トレで走り始める時のように、軽やかな足取りで行ってしまった。  そんな佳くんの背中を見送る。  すると突然、横から名前を呼ばれた。 「ん? あれ? 水沢?」  声のした方を振り向くと、そこには私の元担任であり、演劇部の顧問である富田先生がこちらに向かって歩いてきていた。 「富田先生!」  私は思わず叫んでしまう。 「おお! 久し振りだな~。元気だったか?」 「はい! 元気です!」  久し振りに見た先生は相変わらず小柄で若く見える。  行動も機敏なため、アラフォーに片足を突っ込んでいる年代には見えないのだ。 「今日は一人か?」 「いえ、演劇好きな友人と来ました。今はちょっと、買い物に行ってますけど」 「そうか。あ、うちの劇、観たか?」 「はい! 素晴らしかったです! 友人も興奮してました!」  少し興奮気味の私に、先生は満足そうに笑顔を浮かべた。 「お前の方はどうだ? 短大だったよな? そっちの方はどうだ?」  瞬間、自分でも不自然だと感じる早さで表情が陰っていくのが分かった。 「……」 「どうしたどうした~。ちょっとこっち来て座れ」
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