2-17

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「あちーなぁ……」  八月ももう中旬に入る。  佳くんと高校演劇を観に行ってから二週間ほどが経った。  お盆が明けて久し振りに顔を合わせたけれど、佳くんの態度はいつもと変わらなかったので、私はほっとしていた。 「エアコン効いてるー? フィルターの掃除したのいつだっけー……」  暑さで無意味に語尾が伸びる。  三人でテーブルにもたれ掛かるように座っていたけれど、佳くんが立ち上がって、元気よく口を開いた。 「じゃあ、掃除しようか! ついでに部屋も全部」 「ホシケイってほんと、体力あるよなぁ。夏バテとかしたことあるか?」  どうかな? と返しながら入り口の方へ行くと、彼はドアを全開にして固定した。  ムワっとした空気が容赦なく入り込む。 「うーん。じゃ、思い切って掃除しちゃうか」  私もゆっくりと立ち上がって(ほうき)を取りに向かう。 「俊太は背が高いんだから、エアコン担当ね」  そう言いながら、佳くんは窓を開けていった。 「了解……」  俊太は(だる)そうに言うと、脚立を持ってエアコンへと向かった。  はたきをかける佳くんの後を、私が箒で掃いていく。  十畳ほどのプレハブ小屋なので、掃除はすぐに終わってしまった。 「おい、ちょっといいか?」  俊太が脚立に上ったまま、フィルターを持ってこちらを振り返っていた。 「こっちの掃除よろしく。俺は本体な」 「はいはい、了解~」  私はフィルターを受け取って、外にある水道へ向かった。  今日もいい天気だ。  真っ青な空に真っ白な雲が浮かんでいる。  すくすくと育っている田んぼの稲穂も、さらさらと緩やかに揺れていた。  日傘を首に挟みながらフィルターを洗い始めたけれど、傘の重みに耐えきれず、どさりと地面に落としてしまう。  背中や首に強烈な日射しが当たり、ジリジリと肌に痛みを感じた。 「持ってるよ」  突然、辺りが陰る。  振り向き見上げると、佳くんが日傘を差してくれていた。 「ありがとう。すぐに洗っちゃうね」 「急がなくていいよ」  そう言うと、佳くんが私のすぐ後ろでしゃがんだ。  距離がぐっと近くなって、何だか落ち着かなくなる。  私はフィルターを手早く洗った。  プレハブ小屋からは、俊太がエアコンの本体掃除に使っているのか、掃除機の騒音が聞こえてきた。  洗ったフィルターを壁に立てかける。  首を伝う汗を、ポケットから取り出したハンカチで拭った。 「あっつ……」  今日は本当に、声に出さずにはいられない暑さだ。  私はハンカチをしまうと、日傘に手を伸ばした。
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