2・彼は恋愛小説家

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裕一と一緒にカフェを出た美優は,彼の運転するミニバン車で,大型玩具(がんぐ)店に向かっていた。 目的はもちろん,今日で三歳になった娘の春奈の欲しがっていた,クマのぬいぐるみを買うためである。 実家住まいとはいえ,美優たち母娘の生活は決して楽ではない。春奈の欲しがるものを買ってあげられるのも,お誕生日とクリスマス+(プラス)α(アルファ)くらいのものだ。 だからせめて,お誕生日の今日くらいはワガママを聞いてあげたいのが親心というもので……。たとえ,バイトの給料が入る前で,財布の中身が心持ち(さみ)しくても 「――ところで,一つ訊いていいかな?」 「はい。何ですか?」 助手席の美優は,運転席の裕一に向き直った。横顔も,なかなかのイケメンだ。……それはさておき。 「春奈ちゃんの父親って――つまり,君の元彼氏(モトカレ)ってことだけど,今でもまだ会いたがってるのかな?君と,春奈ちゃんに」 ちなみに,春奈の実父(じっぷ)・健とのイザコザについては,メッセージのやり取りでも彼に伝えてあるのだが。 「さあ?もう四年近く連絡取ってないので,どうなんだか。ただ,『会いに来るな』って言ってあるので」 たとえ会いたがっていても,会わせる気はないと美優は答えた。
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