2・彼は恋愛小説家

8/21
前へ
/86ページ
次へ
「だって,自分の責任でできた子を『堕ろせ』なんて簡単に言うんだもん。こんな父親ならいらない,あたし一人で育てるんだ,って……思ったんですけど……」 我ながら,声が尻すぼみになっていくのが情けない。 「自信,なくなっちゃったんだ?だから婚活を?」 「ええ,まあ。そんなところです」 初対面の裕一にズバッと言い当てられ,美優は肩をすくめる。ついでに,メッセージでは打ち明けられなかった秘密をカミングアウト。 「実はあたし,高校時代ギャルだったんです」 「だろうねえ」 「ちょっと!なんでそこで納得しちゃうんですか?」 いともあっさりと事実を受け入れた彼に,美優は口を(とが)らせて抗議した。 「だって,そうでもなかったら,そんないい加減な男と付き合ったりしないだろうなあ,と思って」 「……はい。そうですよねえ」 彼女は初めて,四年前の自分自身を呪いたくなった。 春奈を身ごもったことも,シングルマザーになる道を選んだことも,後悔はしていないけれど。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加