2・彼は恋愛小説家

9/21
前へ
/86ページ
次へ
「こないだ,娘の保育園の先生に言われたんです。『上のクラスに上がったら,父親がいないことで,春奈がつらい思いをするかもしれない』みたいなことを」 「うん……」 「はっきりとじゃないけど,そう取れることを,です。先生に悪意はなかったと思うけど。母親としては,やっぱり責任感じちゃって……」 美優は心の中で,自分を責めていたのだ。 自分一人で子育てするのには,いつか限界が来る。それを分かっていなかった,四年前の自分を。 「そうだったんだ。だから,本気で婚活しようと思ったんだね?春奈ちゃんのために」 裕一の言葉は優しくて,だから美優も素直に頷けた。 「やっぱり,君はいい母親だと思う。だったら,春奈ちゃんのためにも,うーんと幸せにならないとね」 「はい!……裕一さんと,ですよね?」 美優の言葉を,彼は肯定も否定もしなかった。ただ曖昧に笑っただけで。 (あたしは本気なんだけどなあ……) 裕一だって,美優にその気があるから,今日は会ってみようと思ったのではないだろうか? とはいえ,焦りは禁物(きんもつ)だ。父にも言われたし。「婚活は,じっくり時間をかけた方が上手くいくもんだ」と。 まずは,彼の人柄をよく知ることから。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加