2・彼は恋愛小説家

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(お父さんにも言われたっけな。まずは恋愛から始めてもいいんじゃないか,って) それなら,いきなり「結婚を前提に」よりも,「まずは恋人から」の方がいいかもしれない。じっくり時間をかけて,愛をはぐくんでいって……。 ――車は,佐々原家の前に着いた。 「裕一さん,今日はホントにありがとうございました」 車を降り,後部座席から荷物を降ろした美優は,裕一にお礼を言った。 「いやいや。僕の方こそ,ありがとう。今日は楽しかったよ。なんか,自分が小さい子を持つ父親になったような感じがしたんだ。まだ独身なのにね」 そう言って笑う彼に,美優は思いきって言ってみる。……予定していたのとは違う形になってしまったけれど。 「じゃあ……,ホントに,春奈の父親になってくれませんか?別に,今すぐじゃなくていいんです。いつか,遠くない将来に」 「うん,いつかは……ね。僕も,そのつもりでいるよ」 (よかった……) 美優はホッとして,それでいて嬉しかった。彼が本気で,自分と結婚するつもりでいてくれていると分かったから。 「じゃあまずは,恋人としてお付き合い始めませんか?あたしと」 「うん,いいよ」 彼は大きく頷き,美優の(ほほ)に手を触れて,微笑みかけた。 「じゃ,僕はこれで失礼するよ。春奈ちゃんにヨロシクね。君からの連絡,楽しみに待ってるから。……()()」 「はい。……えっ⁉今,『美優』って……」 彼に頬に触れられたことと,いきなり呼び捨てにされさことで,彼女はドキッとした。でも,そうか。これが恋人同士ってことなんだと,次の瞬間に気づく。
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