2・彼は恋愛小説家

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「うん。ありがとね,お父さん。その時は,春奈のことお願い」 彼女は今日決心したことを,改めて父に打ち明けようと思った。意を決して,そろそろと口を開く。 「お父さん,あたし,浜田裕一さんと結婚話を進めることにしました。彼に,春奈の父親になってもらうつもりです」 思いきって宣言したものの,「まだ出会ったの一人目なのに,早急すぎる」と呆れられるかな,とも思った。けれど,父の反応は思いのほかドライだった。 「……お前はもう,決めてるんだな?だったら,父さんは反対しない。お前が幸せになれるなら,それでいい」 「うん。あたし,絶対に幸せ(つか)むから」 「そうか」 美優と父の秀雄が玄関で話し込んでいると――。 「ママ―,おかえりなさぁい」 たどたどしくて可愛い声がして,パタパタと小さな足音が廊下を走って来る。 娘の春奈が迎えに来てくれたのだと分かった途端(とたん),美優は母親の顔になって破顔(はがん)した。 「春奈,ただいま。おそくなってゴメンね!お約束通り,クマさん買ってきたよー。今日もいい子にしてた?」 春奈は「わあ,クマさん?」と目を(かがや)かせる。 「ママがいない間,さみしくなかった?」 「さみしかった」 小さい子は正直だ。いつもは聞き分けがいいこの子も,今日はさすがにグズっている。 母親としては,少し胸がチクリと痛んだ。
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