3・「パパ」と呼ばれる日

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美優は春奈と手を繋ぎ,立ち止まると通話ボタンをタップして,スマホを耳に当てる。 『美優,今帰りね?お疲れさま。春奈ちゃんも一緒ね?』 「うん,一緒だよ。今日,給料日だったでしょ?だから,銀行と本屋さんに寄って,ちょっと遅くなっちゃって」 遅くなったといっても,ほんの少しだけだと思うけれど。保育園にお迎えに行った時だって,春奈もグズらずにゴキゲンだったし。 「お母さん,今日の夕飯なあに?」 『ハンバーグよ。チーズ入りの』 佐々原家の夕食メニューは,基本的に一番年少の春奈の好物を基準にして決定されるのだ。そして,家族の誰もがそれに異議(いぎ)(とな)えたりしないのだ。 「春奈っ。今日の晩ゴハン,チーズ入りのハンバーグだって!やったね!」 「うん,やったあ!」 三歳になった春奈も,満面の笑みで大はしゃぎ。娘の背丈(せたけ)に合わせてしゃがんだ美優ママと,ハイタッチを()わした。 「お母さん,春奈も喜んでるよ」 美優がスマホを再び耳に当て,母にそう報告すると,電話の向こうから「聞こえてたわよ」と呆れたような声が返ってくる。 そりゃそうだろう。電話が繋がったままの状態にしておいて,春奈と二人ではしゃいでいたのだから。
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